052

※カカシ視点


誰かが自分の部屋にいるというのはなんとも居心地が悪いと頬杖をつきながら、穏やかな寝息の少女を見つめる。見ないうちにずいぶん成長したものだと素直に感心する反面、目を離したことへの後悔に苛まれる。

ノーマークだと彼女に告げたのはまるっきりはったりである。
むしろ、オレは彼女をよく知っている。


オレがまだ暗部に所属していた時、とある任務を言い渡された。それが星屑一族の監視だった。
星屑一族は星遁という血継限界を誰一人欠くことなく生み出してきた戦闘民族のような一族であり、星遁の規模の大きさから里から隔絶されて生きてきた。それが大きな不満を生み、いつか木ノ葉に対し刃を抜くかもしれないと危惧した里のご長老たちが暗部に監視をつけるように依頼した。それは代々交代してきた任務の一つで、オレで何番目だったかはもうよく覚えていない。ただ一つ覚えているのは、オレのあとに監視に着いたのが、うちは最強と謳われていた「うちはシスイ」だったということだけだ。

シスイはオレとは違い、当時当主であった星屑 ヒジリよりも、その娘である星屑 ながれを気にかけているようだった。彼女には星遁の兆候が全く感じられなかったため、星屑一族の不安要素の一つとなり、崩壊のトリガーになるかもしれないということは、代々この任務についてきたものの間では有名な話だった。

そしてその危惧はゆっくりと実体を持ち、間も無く崩壊は始まる。

星屑一族は一夜にしてその長い歴史に幕を下ろす。なんの力も持たない少女をただ一人残して。

これで監視任務も終わると思っていたのに、シスイだけはその限りではなかった。生来の人の良さからか、彼はながれを保護すると言って聞かなかった。それ自体は三代目様の機転によってなんとか解決したものの、彼はそれからもずっとながれに接触しているようだった。上部に対しては、「齢5つの少女が、その深い悲しみから星遁を発現させ、暴走させない確証はない」と強く説明していたように覚えている。オレにはできなかったことだ。
もちろんシスイはその他の任務に支障をきたすようなヘマはしなかったし、むしろ任務をこなすスピードが上がっていたような気がする。何が彼をここまでさせるのかと、一度彼を追ったことがあった。追った先で見たのは、ただの微笑ましい師弟の姿で、これ以上の詮索は無粋だと身を翻した。
これで少しでも里から危機が去るのなら。あの男の心の支えになるのならそれでいいと思っていたのに。

どうも神様はその少女が気に入らないらしい。



それから、めっきりながれの話を耳にしなくなった。今どうなっているのか。まっすぐ生きているのか、それともフツフツと復讐に身を焼いているのか、誰にもわからないまま、時は過ぎ、オレの元へ何度目かの担当上忍依頼が来た。
その担当の中に、オレはいつかの少女の名前を見たのだ。

まさかまたこんな風に出会うなんて思っていなくて苦笑が漏れる。
どう育った?わずかな不安を抱いて彼女の自己紹介を聞いたその時、その不安は別の方向に淀みなく流れ出した。


『私の夢は、陰から平和を支える、そんな忍になることです』


言っていることが、シスイと同じだ。
それは闇に生きるものの言葉だ。
お前が、笑顔で言うようなそれじゃないだろう。
オレの動揺をなんと受け取ったのか、彼女はニコリと嬉しそうに笑う。その笑みには一滴の汚れもない。純粋に憧れを追いかける少女そのものだった。だからオレはなにも言えない。かける言葉が思いつかない。それが2つの悲しみを乗り越えて出した答えなら…オレはきっとその小さな背中を押すしかないのだろう。

もしその先が暗闇だとしたら、オレがその手を取って、一緒に落ちるのもいいかもしれない。


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