051

ふわふわと微睡む意識の中、ゴロンと寝返りを打つと、おでこを這う違和感を感じた。その感触が額を小突く彼を思い起こさせて、思わず瞼を持ち上げ額を隠すように手で覆う。

「あ」

そこにいたのはカカシ先生で、当然だと思いながらどうしても肩を落としてしまう。「前髪が変なふうに絡んでいたから直そうとしたんだけど、起こしたか?」心配そうにそう聞かれても「いえ…」と答えるのが限界だった。
とりあえず現状理解しようと辺りを見渡すと、それに気付いたのか先生が「オレの家だよ」と教えてくれる。

「チャクラ切れで気を失ったみたいでね。お前らの家に連れて行っても今は誰もいないし、サクラやサスケに頼むのもアレだったから、流れでここまで連れてきたんだれど。気分は…?」
「大丈夫です。…お手数おかけしました」

何から何まで申し訳ないと思いながら頭を下げ、せめてすぐに帰ろうとベッドを下りようとするとまだ一瞬くらりと頭が揺れた。「もう少し休んだほうがいい」先生の言うことは最もで、私は大人しく布団に潜り込む。今日会ったばかりなのに、なんでこの人の隣はこんなに落ち着くのだろうと素直に疑問だった。

「ながれは…」

私を呼ぶ先生の声が聞こえて、首をそちらに巡らせる。細められた目は私を見ていないように思う。

「ながれは、暗部に入隊するのが夢なの?」

私の夢を聞いた先生にはいつか聞かれると思っていた。
だから不思議と落ち着いていた。
私は静かに先生を見据えて、「はい」と頷く。

「現状では暗部になるには力不足だと言うことは重々承知です」

暗部と言われて真っ先に思い浮かぶのは彼らの姿。それがどれほど遠い背中なのかはわかっている。だけど、私がシスイさんの意思を継ぐと決めた時、この方法しかないと思ったのだ。

「わかっているならいいけどね、……暗部は人殺しを躊躇う少女を匿うほどそんな優しいところじゃない」
「先生は暗部にいたのですか…?」

恐る恐る問いかけるとふと視線をそらして彼は頷く。そうだったのかと驚き、なんて人に暗部になると宣言してしまったのだと恥ずかしくなるが、それ以上に彼に安心する自分に納得した。彼がシスイさんと同じだからだ。

「ふふ…」
「なんで笑ってるんだ」
「いえ、私って相当感覚がずれちゃったんだなって思いまして」
「感覚?」
「はい、暗部って聞くと安心します」

私の返答にカカシ先生はうんざりとした表情を浮かべる。それから「誰が君をそこまでずらしたの…」とため息をついた。胸を張ってシスイさんだと告げようとして、そういえば私がシスイさんと一緒にいたことは誰にも内緒なんだと思うと言葉をためらってしまう。だから「秘密です」と言えば、彼はガシガシと頭をかいてそれ以上は何も言わず本を取り出して読み始めた。私は再び瞼を下ろして寝返りを打つ。なんだか静寂の時間が愛おしく感じて、そっと微睡みに意識を投げた。


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