050
時間がない。
「はぁ…はぁ…」
木々の陰に隠れてクナイを握る。
時間がないんだ。
だから、早く誰でもいいから見つけて一緒に先生に挑みたいのに。こんな時に限って手が震えて止まらない。
「なんで…っ」
殺すつもり、を意識するたびに母の顔がちらつく。修練所にポツンと一羽残った烏を思い出す。
こんなことじゃダメだってわかっているのに。なんで私はこんなに無力なのだろう。
震えを止めたくて振りかぶったクナイを地面に突き刺す。そのまま俯いてゆっくりと息を整えていると、服の下に隠していた星のペンダントがじゃらりとこぼれ落ちた。
「はぁ…はぁ……シスイ、さん…っ」
不思議と震えは止まる。
今一度思い出すのだ、あの一文字を。
私には、目指すべき場所がある。殺すことは躊躇っても、進むことをやめちゃダメだ。
もう一度。もう一度だけでいいから、私に力をください…シスイさん。
ペンダントをぎゅっと握り、立ち上がろうとしたその時、
ジリリリリリリリリ!!!!!
と、制限時間のアラームが鳴り響いた。
「うそ…」
目の前が真っ暗に揺らいだ。力の抜けた体が崩れ落ちていく。まるで糸が切れた傀儡のように。
やはり、チャクラ切れかと眩む視界で考えていると、その体が誰かに支えられた。
「無茶をしない」
「……せんせい…?」
閉じていく視界の隙間でニコリと微笑んだカカシ先生が見えたような気がして、私はそのまま意識を手放した。
「…っ、っ…、…ぇ!ねぇ!ながれ!」
体を揺さぶられる感覚と私を呼ぶ声に意識は急浮上を起こした。ぱっと目を開くと、心配そうな表情のサクラちゃんを真っ先に認識する。痛む頭を抑えながら体を起こし周りを見渡すと、丸太に縛りつけられたナルトくんと、こちらをじーっと見ているサスケくんがいることに気付いた。
みんないる!ずっとずっと探していた姿見つけることができた喜びから、私はすかさず声を上げる。
「みんなで取りに行けばいいと思うんだ!!」
三人はそんな私に目を丸くして、「もしかして聞いてた?」とサクラちゃんに首を傾げられ、首を傾げ返してしまう。一体なんの話だろう。
「その様子じゃわかってないみたいね」
「うん、全然」
サクラちゃんはそれもそうかと息をつくと、あのねと人差し指を立てた。
そして話されるこの試験の真実につい驚愕の声が出てしまう。
最初からこの試験は仲間割れを起こすように仕組まれていたのだ…。
ここにいるのは四人。しかし任務目標は三つ。
確かに個人の戦いならこれは早い者勝ちのゲームかもしれない。でもこれは違う。私たちは今日、チームになったのだから。四人で三つの任務目標を達成していく、そういう話だったんじゃないか…。
「"チームワーク"ね…」
確かにその通りだと先ほどより頭痛がひどくなった気がした。
そして先生は答えを教えた上で、私たちに今一度のチャンスをくれたわけだ。挑戦したいものだけ目の前に置かれた弁当を食べろ、しかしナルトにだけは食べさせるなと言って。
「ナルトくん何したの…」
丸太に縛りつけられたままお腹の虫を鳴らしているナルトくんに問いかけると、サクラちゃんが「こっそり弁当を食べようとしたんだって」と教えてくれた。相変わらずちゃっかりしているというか、そういうところはいたずらっ子のままだなぁと苦笑が漏れる。
でも、少し可哀想だな…と思いながら弁当を開くと、先に食べ始めていたサスケくんが「ホラよ」とナルトくんに弁当の残りを差し出した。それに驚いているとサクラちゃんが「ちょ…ちょっとサスケくん、さっき先生が!!」と焦ったように立ち上がる。
「大丈夫だ。今はアイツの気配はない。昼からは四人でスズを取りに行く。…足手まといになられちゃこっちが困るからな」
言い方はきついが、やっぱり彼は根が優しい。変わってしまったことも多いが、変わってないところもあるんだとわかると途端に嬉しくなってしまう。
…彼がここまでナルトくんに歩み寄ったのに、もともと家族のような私が今更先生の言葉なんかで彼を切り捨てれるものか。そう決心し、私は開いたばかりのお弁当をナルトくんに差し出す。「ちゃんと野菜も食べなきゃダメだからね!」と釘を刺すと、「ながれ…」と泣きそうな顔をされて、むず痒くなる。
そんな私たちに感化されたのか、サクラちゃんも食べかけのお弁当をナルトくんに差し出した。サクラちゃんは優等生のイメージが強く、言いつけを破るとは思っていなかったため素直に驚く。
差し出された三つのお弁当にナルトくんは「へへへ」と笑い、「ありがと…」と呟いた。
その次の瞬間、目の前にボンっ!と煙が巻き起こる。「何だァ!!」というナルトくんの叫びを聞きながら、身構えるとそこからカカシ先生が飛び出してきた。
気付かれた…!?
「っ!!」
「うわあああ!!」
「きゃあああああ!!」
「なぁっ…!!」
四人四様の反応を示すと、ほんの50センチ離れたところで先生は足を止め…
「ごーかっく!」
と人好きのする笑みを浮かべるものだから、ついつい素っ頓狂な声が漏れてしまう。
「え!?」
「は?」
「……」
「は、い?」
チャクラ切れやら何やらで頭の整理が追いつかないのだから、少し待って欲しい。
合格…?
「合格!?なんで!?」
脳内が混乱する私の気持ちを代弁するようにサクラちゃんが先生に問い詰める。しかし先生は相変わらず嬉しそうに笑ったまま「お前らが初めてだ」と言う。
「今までの奴らは「素直」にオレの「言うことをきくだけ」のボンクラどもばかりだったからな」
先生はニコニコ笑みをすっと消すと、とても穏やかに、まるで私たち以外の誰かに伝える言葉のように投げかけてくる。
「…………忍者は裏の裏を読むべし。忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。………けどな!」
ー仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだー
その言葉が、先生の表情が、言い方が全て深く心に刺さったような気がした。なんでこんなに痛いのかはわからないけれど、これが先生にとってとても大切なことだと言うことはわかる。
安心のあまり思わず力が抜けてその場にへたり込んでしまう。サクラちゃんは嬉しそうに笑っているし、サスケくんもクールな態度はそのままだけれどやっぱりちょっと嬉しそう。ナルトくんに至っては、キラキラした目で先生を見ていた。
「これにて演習終わり。全員合格!!よォーしィ!第7班は明日より任務開始だァ!!!」
シュビ!と親指を立てるカカシ先生に安堵し、再び視界がふらつく。どこか遠くにナルトくんの嬉しそうな声が聞こえた気がした。
「よかったぁ…」
これで私もちゃんとシスイさんを追いかけられる…。そう思う反面、自分の弱さを強く自覚した。このままじゃダメだ…。
特に…
「おっと…っ」
先生に再び体を支えられる感覚を覚えながら、私はゆっくりと目を閉じる。
特にチャクラ量とコントロール。
これをもっと、上手く扱えるようにならないと…。
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