049

「あぎゃああああああああ!!!」

「っ!」

今の声…サクラちゃんの…!?
一体何があったの…っ!?

一方的に繰り広げられるカカシ先生の戦いに、為すすべがない。ナルトくんは何度も翻弄されて、サクラちゃんも…サスケくんだって手出しできない。それに…先生は本を片手に…の、文字通り「片手間」状態だ。上忍だからと言ってそんな相手にここまで振り回されるなんて…。

「…シスイさん……っ」

今更後戻りなんてできない。したくない。私はぎゅっとペンダントを握った。
あなたに教えてもらったことを思い出して。自信を持って、戦わなくては。

その時、何かが近づく気配を感じた。この状況で、悠々と闊歩できるのはカカシ先生ぐらいだ…。ならばこの草むらの向こうに彼はいる…。

ゆっくり深呼吸。見ているだけじゃダメだ。
こっちから仕掛けに行かないと、どのみちスズが取れなくて任務失敗…。
ならば…玉砕覚悟でぶつかるべし…!

「っ!」

息を大きく吸い、止める。
両のホルダーから取り出したクナイを手に、草むらを飛び出した。

左手に持つクナイを投げ、その瞬間に大きく地面を踏み込む。右のクナイは投げず、そのまま懐に飛び込む。

「ったぁ!!」
「おっと」

カキン!
左のクナイが弾かれるのは想定済み。いや、むしろそれを踏まえての特攻だ。
右のクナイで斬りかかると見せて身をかがめ、手のひらを地面に当てると手首を軸に回し蹴り。その足はカカシ先生ではなく弾かれたクナイの背を蹴り、勢いを取り戻したクナイは彼の顔に向かい飛んでいった。

「っく!」

それをもう一度クナイで凪いだ彼は隙を見せる。これを待っていた。
勢いをそのままに地面を押すように体を宙に投げ、そしてまるで鞭のようにしなる体を利用して大きく振りかぶった右のクナイを切り込む。

「っ!」

……それを身代わりの術で避けるのも…想定済み…!
クナイは強く身代わりの丸太に刺さるが、私はその丸太を地面に叩きつけるようにしてから遠心力を利用し自らの体を飛ばす。今絶対に背後を取られていたから、距離を取ることは大切だ。

「わりとやるなぁ…」
「わりとやるんです」

木の根を踏み場にするように着地する私に、カカシ先生は少しだけ楽しそうに言った。本はどうやらしまったようで、思わず口角が上がる。

「本、読まないんですか?」
「読んでたら取られそうだからね。君、全くのノーマークだったけれど、星屑ってことは…星遁の一族か」
「ええ、そんな感じです」
「星遁、うってきなよ。そしたら取れるかもよ」
「ふふふ。できたらよかったんですけれど…いかんせん落ちこぼれなので…打てないんですよ…っ」

その代わり、と私は印を組む。
胸の少し上のあたりに濃度の高いチャクラを貯めて…貯めて。

「それは…っ」

印で察したのだろう、カカシ先生は軽く距離を取る。それでもいい、関係ないのだから。

「火遁ーー、豪火球の術!!」

少し下向きに吐き出した火の球は先生の足元を強く焦がす。そしてそれを吐き出すと同時に私はもう一つ印を組み、火の球に紛れて距離を詰める。

「こんなに下向きに吐いたら、せっかくの大玉が…」
「それを渋っていたら、いつまでたっても私は落ちこぼれですから…!」
「へえ…!」

もう一度チャクラを貯める。今度は弱いチャクラをたくさんだ。

「火遁…っ、鳳仙花の術!!」

人の頭の大きさほどの火の球を数多も吐き出し、意識を拡散させる。鳳仙花の術は一つ一つの威力こそ低いものの、合わさればそれはとても強い術に化ける。何事も使い方次第だ。
先生が小さな火の球に意識を散らしたその一瞬、私は即座に背後に回り込み、クナイを首筋目掛けて振り下ろす。

「っ!!」

しかし、その手首はがしりと掴まれ、一呼吸置く間も無く投げられる。なんとか空中で体制を立て直すものの、これじゃあまた振り出しだ。

「今、躊躇っただろ?」
「え…?」
「クナイを振り下ろす時、一瞬動きが鈍くなった。殺してしまうかもと躊躇ったからだ」
「………」
「残念だが、それじゃあオレは殺せない」
「っく…」

ダメだ。ここは退かなきゃ。
豪火球だって打ってしまったし、鳳仙花も…。もうそろそろチャクラが切れてしまってもおかしくない。もう少し多くチャクラを持てたらあと一戦挑めたが…今は退くのが吉。

「まあ、動き自体は悪くなかった。落ちこぼれっていう自虐、やめたほうがいいぞ」
「自虐じゃありません…。私を強くしてくれた言葉です…」

まるで負け惜しみのように呟いて、草むらに飛び込む。転がる体をなんとか立て直し、せめて誰かと合流しようと木々の合間をかける。

全然、覚悟が足らないじゃないか。
今も少し震える手が憎らしい。
殺す気でいた…つもりだった。何も足りない。足りないものが多すぎる。彼の場所に行けない。

「っ、うっ」

じわりと滲んだ涙を無理矢理に拭って、走る。
もっと高みへ。
もっともっと、強くならないと…いけないんだ…。


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