047

「んーーー、なんて言うのかな。お前らの第一印象は…」


ーー嫌いだ!!


他のどの班よりも遅く…、いやむしろ遅刻してきた私たちの班の担当上忍は、ナルトくんに仕掛けられた黒板消しのブービートラップに引っかかりそう一言。
三人が少し落ち込むのを見て、ため息が出る。そりゃあこんな歓迎の仕方されたら私だって嫌いになる。

彼は私たちを連れ立って屋上に出ると、柵に腰掛けて「そうだな…まずは自己紹介してもらおう」と口にする。それに対してナルトくんが「…どんなこと言えばいいの?」と聞いていて、敬語を使って!と言う意思を込めて肘でつつくが、彼はそんなこと気にならないようで、私の方を向くとニカッと笑う。全然違う…。

「そりゃあ、好きなもの、嫌いなもの…。将来の夢とか、趣味とか…。ま!そんなのだ」
「あのさ!あのさ!それより先に先生、自分のこと紹介してくれよ!」
「そうね…見た目ちょっとあやしいし」
「サクラちゃんって素直だよね…」

正面切ってあやしいなんて言うとは思っていなくて、正直驚いた。もっとオブラートに包んだりできないのかなこの二人…。サスケくんも口を開くと思ったことを口にするし、案外いい組み合わせなのかも…?

「あ………オレか?オレは「はたけカカシ」って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢…って言われてもなぁ……。ま!趣味は色々だ………」

私たちを見渡して「ねェ…結局分かったの…名前だけじゃない?」と聞くサクラちゃんに頷く。秘密主義にもほどがある。

「じゃ、次はお前らだ。右から順に…」

先生から見て一番右にいるのはナルトくんだ。その次が私か…。少し緊張する。

「オレさ!オレさ!名前はうずまきナルト!好きなものはカップラーメン。もっと好きなものはイルカ先生におごってもらった一楽のラーメンと、……ながれが作った料理!!」

突如上がった名前にどきりとする。まさかそこに私の料理が入るとは思わなかった。…しょうがない……野菜炒めはやめてあげよう。

「嫌いなものはお湯を入れてからの3分間。将来の夢はァ…」

ああ、きた。
将来の夢。
ナルトくんの将来の夢を聞くたび、私は力をもらうことができる。

「火影を超す!!ンでもって、里の奴ら全員にオレの存在を認めさせてやるんだ!!」

額当てをかちゃりと上げて、大真面目な顔で言ってのける姿に感動を覚える。ああ、何度だって聞いていたい、彼の自信満々のこの言葉。いつだって私の覚悟を試してくる。

「趣味は…イタズラかな」
「……」

続く言葉に苦笑い。これだけは治るかどうかも微妙だな…。

カカシ先生はガシガシと頭をかくと、私を見て「次!」と先を進める。

「あ、はい!名前は星屑 ながれ…です。好きなものは修練と料理。嫌いなものは…努力と…夢を見ること。あ、寝る時に見る夢です。……で…将来の夢は…」

そういえば、私の夢って誰かに言ったことはなかったな。なんだか声に出すのが怖くて、これを言って仕舞えば後戻りできなくなるような気がしたから…。
でも、今ここで言わなきゃ、一生曖昧なまま終わる気がする。丁度いい、今はナルトくんもサスケくんもいるから…。

「私の夢は、陰から平和を支える、そんな忍になることです」

彼の意思を継ぐために、私だって決意しなくちゃ。飄々としたカカシ先生の、少し驚いた表情が嬉しかった。

「趣味は…料理と…うーん……釣りとか」
「釣り?渋いね」
「小さい頃教えてもらって、それから時々川釣りをしてます」
「なるほど…。じゃあ次!」

自分の自己紹介が終わり一安心、だがよく考えれば次はサスケくんだと気付き、息を飲む。こっちもなかなか問題児だから…。

「名はうちはサスケ。嫌いなものならたくさんあるが、好きなものは………ここで言う必要はない」

嘘つけ。あんたトマトとおかかのおにぎりが大好きでしょう、と思いながら突っ込んだら負けだと口を噤む。それに、少し視線を感じた気がするが、私もその「言う必要はない」好きなものに含まれていたらいいなぁ。

「それから…、夢なんて言葉で終わらす気はないが…野望はある!」

力強いその言葉にどきりとする。
思い起こされる額に触れた震えを、私は忘れない。

「一族の復興と、ある男を必ず……」


ーー殺すことだ。


ぞわりと空気が変わった。始まりの日になんて重い言葉を持ち込むのだとため息も出そうになったが、今ここではダメだと飲み下す。もっと言い方というものがあると思うが、きっとサスケくんにとってそれは揺るがない決心なのだろう。
私だって、あの人には会いたい。会って話がしたい。けれど、それはサスケくんが「野望」と呼ぶそれとは少し違う、と思う。

「………よし。じゃ、最後、一番左の女の子」

長い沈黙を破ったのはカカシ先生だった。彼が今のサスケくんの言葉をどう受け取ったかはわからない。けれど、彼ほどの年齢ならば事情は知っているだろうし、きっとサスケくんのこの気持ちも理解してくれる…そう、思うことにした。

「私は春野サクラ。好きなものはぁ…ってゆーかあ、好きな人は…」

そこでサクラちゃんはチラリとサスケくんを見やる。

「えーとぉ…、……将来の夢も言っちゃおうかなぁ………キャーーー!!」

あらかた、「サスケくんと〜…」路線だろうなあと苦笑が漏れる。やっぱりサスケくんは一線を画した人気ぶりである。確かにかっこいいと思う。顔だけじゃなくて、強くてクール…っていうのはやっぱり憧れる人がほとんどだろう。

「嫌いなものはナルトです!」

ピシャリと言い切るサクラちゃんに落ち込むナルト。さらに彼女は「趣味はぁ…」と続けながらサスケくんを何度もチラチラと見ている。…うん、このぐらいの子はみんな忍術より恋愛だよね。よくわかる。


「よし!自己紹介はそこまでだ。明日から任務をやるぞ」
「はっ、どんな任務でありますか!?」

ワクワクを隠しきれない様子でナルトくんが食い気味に聞くと、カカシ先生は呆れた様子もなく淡々と言ってのけた。

「まずはこの五人だけであることをやる」

もったいぶる先生に、ナルトくんは待ちきれないと言いたげに前のめりになる。でも、この先生の表情…あまりいいことは起きないと思うんだけれど…。

そう心配する私を知ってか知らずか、先生はニコリとも笑わずマイペースに任務を言い渡すのだ。

「サバイバル演習だ」


back