045

「サスケくんっ」

お弁当を片手に走っていると、用具室前の屋根の上でお弁当を広げているサスケくんを見つけて声をかける。なぜあんなところで食べてるんだろう。ナルトくんももっと上の屋根で食べてたし。

「ながれか」
「待ってて、今そっち行くね!」
「いや、オレが降りる」
「ううん、大丈夫ちょっと待ってて!」

私は用具室の窓から外に出るために一回建物の中に戻り、階段を登る。用具室を見つけ、ばっと飛び込むとサスケくんがこちらを向いて苦笑していた。

「本当に来たんだな」
「あんな嘘つかないよ」

手にしたお弁当を一旦窓枠において、乗り越えようと手をかける。するとサスケくんが無言で手を差し伸べてくれるから、私はそれにつかまり足を上げた。

サスケくんはあの事件以来、あまり笑わなくなってしまった。他者に対して心を閉ざし、ただ一心に復讐に打ち込むために。でも、私のことを気にかけてくれる姿はずっと変わらなくて、「家族と同じぐらい好き」と言っていたあの人の言葉をつい思い出してしまう。サスケくんには悪いけれど、きっとあの人の言葉は正しいのだろう。だからこそ、私だけはサスケくんのそばにいてあげたいと思う。もちろんナルトくんのそばにも。

「っ、きゃっ」
「!」

そんな考え事をしていると、足が窓枠にぶつかりバランスを崩してしまう。落ちるー!そう覚悟して目を閉じると、腕を強く引かれ ぼすり とサスケくんに抱きとめられた。

彼の温もりがこんな至近距離にあるのっていつぶりだろうか。きっとサスケくんは無意識だったんだろうけれど、私の心臓がばくばくと鳴ってたまらない。これは落下に対する恐怖からか、それとも…。

「……だからオレが降りるって言っただろ」
「ご、ごめん…」
「落ちていたらどうするつもりだったんだ」
「ごめんってば…」
「はぁ…」

そのため息と共に抱きしめる力は強くなって、さらに心臓は悲鳴をあげた。

「……お前だけは、失いたくない」
「……」

それは何度も何度も聞いた言葉。
全部を失った彼が、私にだけ見せてくれるただ一つの弱み。

「うん…ごめんね……」

鼓動は静まり返り、言えるのは謝罪だけ。震える肩を抱きしめて、今だけは……。

そう思っていたのに。

「きゃ!?」
「ぬおおお!」

背中にかかる強い圧力に追いやられ、サスケくんとの距離がゼロになる。そのまま用具室に引きずられると、そこには驚いた表情のナルトくんがいた。

「ナルトくん!?」
「ながれ!?……っ、今はわりぃ!後で絶対解いてやっからよっ!」
「えぇえええ!?」
「ナルトてめぇ!!」

ぐるぐるぐるぐる、と。サスケくんと密着した状態で縄で縛られて行く。身動きはすっかり取れなくなって、口元もテープで抑えられてしまった。
わけがわからないが、今日の晩御飯は野菜たっぷりにしてやろう。

しっかり私たちの行動を封じたナルトくんは変化の術でサスケくんそっくりに変化すると、用具室を飛び出していってしまった。

静まり返る用具室でぐるぐる巻きにされるなんてなんて情けないと思う反面、こう密着した状態だと色々気になってしまう。数センチしか離れていない整ったその顔を、どうしても見ていられなくなりぎゅっと目を閉じて顔をそらす。否応無しに上がる体温と心音。ああ、全部サスケくんに伝わってしまう。

「っ、っぐ」

そんなことを危惧する私をよそに、サスケくんは何度も身をよじる。薄眼を開けてそっと目をやると、それは主に肘のあたりで、はっと思い出した。

縄抜けの術だ!

私も彼に合わせて体をよじる。するとサスケくんがこちらを見て目を見開くから、分かってるという合図を送るために頷く。
今はドキドキとか乙女チックなことを考えている場合じゃない。なんとか抜け出して、ナルトくんにお説教しなくては。


back