041

「やばい!!」

満月の照らす夜道を私はひたすらに走っていた。
まさかここまで遅くなるなんて思わなかったのだ。もしかしたらまたナルトくんが探してくれているかもしれない。急がないと。

「そうだ…っ」

確か、うちはの方を通れば近道だったはず。申し訳ないけれど、そこを通らせてもらおう。
速度を緩めないように足に走る痛みは無視してひたすらにかけていく。

「っ…!」

うちはの居住区に入ったとき、空気が一変したのを感じた。思わず足を止めて周りを見渡し、絶句。

「え…?」

通りに広がる血飛沫。まだ新しいであろうそれは月明かりに照らされて爛々と輝きゾッとする。
鼻につくこの異様な匂いは間違いなく血の匂いだ。少しだけれど嗅いだことがある。あまり心地いいものではない。

そして何より、通りに転がる無数の死体。

「ぁっ…」

言葉がない。
足がすくんで動くことができない。

−−どうして。

なぜこんなことが起こっているの…?
転々と見える家紋に吐き気がこみ上げる。

こんなの、嘘だ…。


「っ、サスケくん!イタチさん!!」


呆然となんてしてる場合じゃない。
もう嫌なんだ。何度も何度も失うのは。
あんなのは、もう嫌。苦しいのは嫌。笑っていたい。みんなで笑っていたいのに。


−−どうして。


できる限り死体に意識をやって、見つからないように祈りながら、無事でいてとひたすらに、走る。


「………!!」


バッと飛び出したそこに、二人はいた。
向かい合って、サスケくんは泣いていて、イタチさんは…。



「兄さんが…シスイさんを殺したのかよォ!?」



………え?


「そのお陰で、この"眼"を手に入れた」


淡々と肯定するその声がやけに遠くに聞こえる。

サスケくんもイタチさんもなにを言っているの。
そんなわけないじゃないか。
だって、シスイさんとイタチさんは親友で、あんなに嬉しそうにイタチさんの話をしていたシスイさんは……?
殺された…?
イタチさんに……?


「嘘だ…」


私の呟きは夜闇の風にさらわれて、まるで足元も崩されるように座り込む。

なんで否定してくれないの。
"眼"ってなに。
なんで殺したの。
理由は…?
殺されなきゃ、いけなかったの…?


「うそ…うそだ…ぜんぶ…」


許せって、落とした口付けは?
サスケくんを頼むってどういうこと?
それに、シスイさんの命は必要だったの…?


「なんで……っ」


ボロボロと、涙は止まらない。
彼の死を知ったあの日より、ずっとずっと苦しくて、うまく嗚咽も吐けなかった。

「はっ……はっ…」

逃げたい。夢なら早く覚めて。
嘘なら嘘って言って…。
現実なら……せめて、逃げ道を頂戴。そう願いながら、私は意識を手放した。





しかし残念ながら、翌日目を覚ますと、うちはイタチが一族殺しの大罪人として指名手配された後だった。
そう、一夜にして彼は消したのだ。一族を…友も両親も…。

たった一人、弟のみを残して。


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