039

あの日からしばらく日が過ぎたが、一度もイタチさんと会えていない。きっと任務が忙しいんだと容易に想像ができたが、それでも割り切れないものはあって、何度もうちはの敷居を跨いでしまっている。

「じゃあ…私は帰るね」
「おう…」

ミコトさんに料理を教えてもらって、サスケくんと少しだけ一緒に修練して、いつもより早くお暇する。引き止める彼はもういなくて、ああ変わってしまったんだって理解した。

トボトボと夕暮れの道を歩く。どこかに行く見当もないのに家に帰りたくなくて、まるで誰かを探すように里を歩く。

「っ…」

その時目に入った黒い一つ結びの髪に、私の心臓は早鐘の様に鳴る。今しかない。今日しかない。なぜか逸る気持ちを隠すことなく、私はその背中に駆け寄った。

「イタチさん…っ!」
「ながれか…?」

振り向いた彼は私を視界に入れたと思ったら、ふいっとそらしてしまう。あの場所に私がいたことをきっと彼は気づいている。

「どうしたんだ。俺はこれから報告に行かなきゃならない。だから…」
「あ、私は…」

そんな顔、して欲しかったんじゃない。
少しでもいいから笑って欲しかった。どこにもいかない証明が欲しかった。
でもこれじゃあ真逆だ。

「ごめんなさい…お忙しいのに呼び止めてしまって…」

それじゃあ、と踵を返す私に「待て」と言ったのは誰だ。おそるおそる振り向くと、バツが悪そうな顔をしたイタチさんが目に入る。

「イタチさん…?」

迷いのない足取りで私の目の前に立つ彼に息を飲む。その目は今、何を見ているんですか…?本当に、私を見ていますか?

「サスケはお前のことが好きだ」
「え……?」

突然の言葉に混乱もない。ただストンと胸に落ちたその言葉はちっぽけな私を蝕むようだった。

「お前のことを家族と同じぐらい信頼して、愛している。きっと自分を投げ出せるほど」

それはきっと、私がシスイさんを好きな気持ちとは違うものだ。落ち着いたイタチさんの声にゆっくりと理解した。

「……だからサスケを頼む」
「まって、ください。サスケくんにはイタチさんが…」

ついてるじゃないですか。彼の微笑みと、イタチさんがどこかにいってしまうと嘆くサスケくんを思い出し、私はそこまで言葉を紡げなかった。

本当にどこかにいってしまうの?
一体どこに?
それはサスケくんを置いていってまで行くべき場所なの?
家族なのに、兄弟なのに、なんで一緒にいてあげれないの?

大切なものがどんどん引き裂かれて行く。
私の考えがなんて愚かなのか、わかっていても嘆かずにはいられなくて、目を伏せた。

彼方に消え行くその背中は、やはりもう見えなくて、果てしない後悔に苛まれて呼吸もままならないと立ち尽くした。


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