035

私は暗闇の迷路にいた。
何度もそこでぐるぐると回って、一人ぼっちでぼろぼろと泣いて。
誰も私を助けてくれない。自分自身すら信じられない。そんな泥沼に落ちそうな時、誰かが手を差し伸べてくれた。
私は藁にもすがる思いでそれを掴む。その手は私を引き込む泥沼の何倍もの力で引き上げてくれて、視界が明るく変わる。

誰もがおめでとうと笑っている中、私は白無垢を着ており、身体は二十代ぐらいに変化していた。結婚式、であることを認識すると誰かに名前を呼ばれる。

耳に馴染んだ声。
そして私は、それが自分の夫になる人の声だと知っていた。
だから、私は。



「っ!」

振り向いて彼に飛びつこうとした時、目がさめる。額にうっすら浮かんだ汗、ばくばくと鳴る心臓は先ほどの夢のせいか。あんなに穏やかな最後だったのに、なぜ?

…そんなの決まっている。
母の時も、夢を見たから。私が望む、未来の夢を。
心にまとわりつく黒い影が取れない。
ざわついて、今すぐにでも会いに行きたい。

「ながれ…?」

隣で眠っていたナルトくんがのそりと体を持ち上げた。そんな彼に私は「ちょっと出かけてくるね」と早口で伝え、着替えもそこそこに飛び出す。

大丈夫ですよね?
母さまの時みたいにはなりませんよね?
だってあなたは…。

「うっ」

まなじりに浮かんだ涙を無理矢理に拭って、私はひたすらに走った。
私は今彼がどこにいるか知らない。
…だから、目指すのは修練場。



「はぁ…はぁ…」

門を素通りしてひたすらに森を駆け、そこにたどり着くための時間はいつもより長く感じた。私は呼吸を整えるのも早々に階段を駆け下りる。
私の不安を消して。そんなわけないだろって、笑って。頭を撫でて。

修練場に出ると、真っ白で何もない空間に何か黒い塊があることに気付く。嫌な予感が、さっきから離れない。
それにゆっくりと歩み寄ると、それは一匹のカラスだった。

「カラス…?なんで…」

こんなに近付いても逃げないなんて珍しい。私はそっとそのカラスに手を伸ばした。

「え…?」

そのカラスは、私をじっと見つめるような動作を見せると、手のひらに何かを落とした。それだけの行動を取ると、カーッ!と一鳴きし入り口に向かって飛び立ってしまう。
私はそれを見送ってから再度手のひらのものを見る。

「これ…」

それは、星の飾りがついたペンダントだった。

見間違うわけがない。
あの髪飾りをアレンジして作ったものだ。
なら、これはシスイさんが…。

自然と私の瞳からは涙がこぼれていた。
一層強い不安に飲み込まれてしまいそう。

なんで、直接渡してくれないんですか?
それって、やっぱりあなたは…。

「ちがうっ」

湧き上がる疑念に言葉で蓋をして、震える足で立ち上がる。

そんなわけない。
あの人はうちは最強の男だ。
里のために戦う、生粋の忍だ。
だから違う。この不安は的外れだ。
大丈夫だ。
シスイさんだもん。
あの人は強い。すごく強い。
そんな簡単に…。


「死ぬわけないだろって、言ってください…っ」


何度言い聞かせても、涙は止まってくれなかった。


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