032
気まぐれで投げたクナイは的外れな軌道を取り、壁に当たるとかしゃんと地面に落ちた。修練場をこんなに寒いと感じたのは初めてかもしれない。未だに額に残った熱が取れなくて、私は入り口へ登る階段に腰掛ける。
その時、カツカツと階段を降りてくる音がして、私はそちらを振り向いた。
「シスイさん」
「おー、どうしたんだこんな中途半端なところで」
そこにいたのが彼で安心する。
私は彼が降りれるように道を開け、壊れた髪飾りを差し出した。
「これ…」
「ごめんなさい!!壊れちゃって…。あの……ごめん、なさい…」
それ以上の言葉が見つからなくて、ひたすらに謝ると彼は軽く笑ってそれを受け取ってくださった。
「んーっ、ピンの部分が壊れただけみたいだし、ながれさえ良ければ俺に預けてくれないか?」
「え…?」
「悪いようにはしねえよ。ほんのちょっと貸してくれたら、すぐ返すから」
「直して下さるんですか!?」
まさかの申し出に詰め寄るように問いかけると、彼は「どうかな?」と曖昧な返事しか下さらない。それでも、どうにかしてくれるかもしれないと信じられるものがあるから、私は髪飾りを彼に預けることにした。
「お願いします…っ」
「おう、任せとけ!」
意気揚々と胸を張る姿に気分が楽になる。
今なら修練も身になりそうだとクナイを取り出すと、やる気だなあ!とシスイさんが笑う。頷き一つ、私は腕をまくってクナイを構える。
「あ、そう言えば、イタチさん暗部に入隊したらしいですね!!」
「っ」
「あ…」
気分が上がってしまい絶対言うまいと思っていた話題を口に出してしまった。目を丸くするシスイさんに、やはり言ってはいけないことだったのかと実感する。それでも私は何も知らないふりをして、大丈夫ですか?と聞く。ずるいかもしれない。それでもいいから、今のを全部無しにしてしまいたい。
「ああ…、大丈夫だ」
「シスイ、さん…?」
「そう、だな。暗部に入隊したらしいな」
「聞いて、ないんですか…?」
「いや………。俺は」
何かを隠しているのはすぐにわかった。きっと簡単に口に出していいことではないということも。それでも私は知りたい。彼のこと、彼らのことを全部。
「ながれ」
「はい…」
「忍というものは、『陰から平和を支える名もなき者』だ。それが本物の忍だ」
「陰から…」
「ああ、お前には光のもとに生きて欲しい。だが…もし俺の意思を継いでくれるのならお前も…」
そこでシスイさんは口を閉ざすと、私の頭をガシガシと撫で回す。取り繕ったように「なんでもない」と彼は笑うけれど、もう遅い。
私の胸にはしっかりとその言葉が刻み付けられたのだから。
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