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カシャンッと音を立てて私の髪飾りは地面へと落ちる。

「あ…」
「あ…悪ぃ…」

さっきまで手合わせをしていたシカマルくんが目を丸めている。彼の手にした授業用の柔らかいクナイが私の髪をかすったらしく、その衝撃で髪飾りが落ちたのだ。右側だからシスイさんからいただいた方だ。

「大丈夫か…?」
「うん、大丈夫」

私はしゃがみこんでそれを拾う。少し遠くからは他のクラスメイトたちが熱心に授業に打ち込む声が聞こえた。私たちはシカマルくんたってのお願いで日陰でやっていたから、周囲に誰もいない。シカマルくんはめんどくさがり屋だけれど、ペア授業だけはしっかりやってくれるので助かっている。

「あ……」
「え……どうした?」

軽い気持ちで髪飾りを拾うとピンの部分が折れていることに気づく。これじゃあもう髪にはつけられないだろう。

「まじかよ…」

私の手元を覗き込んでいたシカマルくんがそう呟いて頭をかく。シスイさんからいただいた大切な髪飾り……本当はすごく悲しくて、今すぐにでもシカマルくんに詰め寄りたかったけれど、でも結局は私が彼の攻撃を避けられなかったからで、彼は悪くなくて、だから…。

「っ、うっ…」
「は………っ、お、おい!?」
「ぐすっ…だいじょうぶ…」
「………大丈夫じゃねえだろ…」

どうしようもなかったのはわかっているのに涙は止まらない。手合わせの前に外していればとか、うまく攻撃を避けられればとか、今更なのだから口にしたって髪飾りは治らない。

シカマルくんはめんどくさそうに私の目の前にしゃがみこんで頭をワシャワシャと掻き撫でてくれた。その手つきはどこかシスイさんに似ていて、彼に気にするなと言われている気分になる。

「ぅうううぅぅぅ…」
「な、撫でるのダメだったか…?」
「逆…もっと撫でて…っ」
「お、おう…っ」

目を瞑って集中すれば、シスイさんそのままだ。手にした髪飾りは元には戻らないけれど、気持ちだけでも修復しないと多分シスイさんに顔向けができない。シカマルくんには悪いとは思うけれど、もう少しだけ付き合ってもらおう。

「満足かぁ?」
「もう少し…」
「それって本当に少しか…?」
「少しだってば」
「嘘くせえ…」

優しいと思ったら乱雑になるところもそっくり。やっぱりシスイさんに頭を撫でられるの…。

「好きだなぁ…」
「なんか言ったか?」
「ううん。なんでもない」

つい口に出た本心に自嘲して、シカマルくんは「元気そうじゃねえかよ…」とため息を吐き出した。そんなことを言いながらまだ撫でてくれるのだから、彼は存外優しい人なのかもしれない。

「もういいか…?」
「もうちょっと!」
「やっぱり嘘じゃねえか…めんどくせー」

だから、本当にあと少しだけその優しさに甘えさせて。


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