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「サスケくん最近すごいね…」

アカデミーの裏庭でサスケくんと肩を並べてお昼ご飯を食べる。私はまだまだ拙いおにぎりと市販のおかずで、サスケくんのはミコトさんが作ったのだろう彩り豊かなお弁当だ。正直羨ましい。

「そうか…?」

サスケくんは口いっぱいにおにぎりを頬張り首をかしげる。
こんな風に言っているが、最近の彼には眼を見張る。一心不乱というか、無我夢中というか、とにかくどの授業にも真剣で、毎回トップの成績を収めているのだ。元から才能の塊であることは知っていたけれど、今の彼は以前の彼の比ではない。むしろそれが少し怖くもあるのだけれど。

「何かあった?」
「別に…。ただ、兄さんはアカデミーを一年で卒業したらしいから…オレだって…」

ああ、なるほどなと納得。
彼はいつもイタチさんを追いかけている。入学式の時もそれを危惧していたようだし…。でも、それが前向きな気持ちに変わったのならそれはとてもいいことだ。

「でも、サスケくんはサスケくんだよ」
「え…?」
「いつもイタチさんを追いかける必要はないよ」
「でも、おれは兄さんみたいに…」
「それもいいかもしれないけれど、サスケくんはサスケくんだから。まずそれを忘れないでね」
「……」

サスケくんは一瞬目を見開いてから、少し照れ臭そうに笑った。「うん…」か細い返事は喜色を孕んでいて、どこか軽い。きっとあの背中を追うことは、そして追いつこうとすることは重荷になるだろう。果てしないものを追い求める辛さは私の方が知っているだろうから、自分にできることを精一杯やるのも悪くないんだってことわかってくれたなら嬉しい。

「ながれ!」
「ん?むぐっ!?」

おにぎりを咀嚼してからそちらを向くと、口の中に何かを入れられた。反射的にそれを噛むと、中からジューシーな肉汁が溢れてくる。どう考えてもハンバーグだ。

「美味い?」
「お、美味しいけど…どうしたの?」
「えへへ。今のすごく嬉しかったから、お礼!」
「!!」

ぱっと花開いたような眩しい笑顔に、胸がすくような気持ちになる。心底に渦巻いていた不安も全部吹き飛ばすような底抜けに明るい笑顔は、まるで天啓のようで。彼の笑みを失ってはいけないと、言われているかのようで。

「ありがとう…。やっぱりミコトさん料理上手だね?」
「今日のハンバーグは、兄さんが作ったんだよ」
「へ?」

兄さんは料理が上手だから! そう笑う彼に驚きが隠せない。サスケくんがまさかイタチさんが作ったものを、少しだろうと私にくれるなんて思ってもいなかったから。

「イタチさん…なんでもできるんだね…」

口の中の旨味が逃げないうちにおにぎりを頬張る。本当に美味しくて、さすがミコトさんの息子さんだと実感する。サスケくんはトマトを口にしながら自慢げに「だろ?」と胸を張っていた。


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