001

「あなたは星屑一族の子なのよ。それを胸に刻みなさい」

冷たい母の声。私が子守唄がわりに聞いてきた呪詛のようなものは今でもはっきり覚えている。

「なんであなたはこんな簡単な術もできないの…」
「………」

呆れを含んだその言葉に、私は逃げたくて仕方なかった。
あなたには簡単でも、私には難しくて仕方ない。チャクラのコントロールも苦手だし、量だって少ない。それに、私のチャクラの性質は「火」だ。火遁も完璧には使えないのに風遁なんてできるわけがない。

「ごめんなさい…」

文句も全てその一言に閉じ込めた。母はいい?と私を見下ろす。この女はいつもこうだ。

「星屑一族は昔から血継限界として風、火、土のチャクラを組み合わせた「星遁」を扱ってきたのです。あなたもそれを扱ってもらわなければ困るのよ」
「でも血継限界は…誰にでも現れるわけじゃ…」
「今まで現れなかった例はありません。つまらない御託はやめて、チャクラを練りなさい」
「……はい」

ぴしゃりと言われ、私はおとなしく印を組む。
泣きたい。でも泣いたら母は私をまた罵るだろうから我慢した。

いつからか、一族の者に「出来損ない」「落ちこぼれ」と言われるようになっていたのは知ってる。そんなものは事実だからなんともないのだが、母に言われるのだけは嫌だった。これでも私の母なのだ。
父は知らない。外部の一族の出で、私が生まれた後は離婚し、自由の身となったらしい。父に恨みはない。仕方ないと思う。こんな母、私だって嫌だ。

「……ふ、風遁…っ」

どれだけ早く印を組んでも、チャクラを送っても風は起こらない。母は深く深くため息をついて「もういいです」と背を向けた。この瞬間が、一番嫌いだ。

「今日はやめましょう、集中力が足りません」
「ごめん、なさい…」
「謝罪などいりません。そのようなものよりも一刻も早く星遁を扱えるようになりなさい。母は……あなたぐらいの年にはもう両の手のように扱えておりましたよ」
「はい……」

母は私を置いてこの地下修練場から出て行く。私はそれからしばらく時間を置いて地上に続く階段を登った。

「ながれ…?大丈夫か?」
「え…?」

覚束ない足取りで階段を登りきると、森に出る。星遁は発動した時の被害が甚大なため、修練はこのように森の地下で行うのが普通らしい。いつもはこのまま家まで歩いて行くのだが、今日は違った。

「イタチさん!!」

階段を登った先には心配そうな表情のイタチさんがいたのだ。私は思わず彼に飛びつく。
彼は星屑一族と馴染み深いうちは一族の人だ。母にイタチさんはうちはでも屈指のエリートだと聞いていたので初めて会う時までは怖くて仕方なかったが、蓋を開けたらなんてことはない。忍というのすら疑うほど愛情深い方で、こんな出来損ないの私にも優しくしてくれる。といっても、うちは一族の方々は基本的に私にも優しい人ばかりで、そういう一族なのだろうと理解するのは容易かった。

「イタチさん、今日はどうしたのですか?」
「いや、少し修練をしていてね、その帰りだよ」
「そうなんですね!」
「ながれももう修練は終わったか?」
「はい、今日はもう」
「そうか。ならうちに来ないか?サスケも会いたがっている」
「サスケくん!会いたいです!」

「そうか」と笑って、彼は私の手を握ってくれた。迷子になるほど子供じゃないけれど、と思いながら嬉しいから言わない。

「じゃあ、一緒に行こう」
「はい!」

私は彼の手にひかれ家とは違う方向に歩き出した。帰りたくないからこれでいい。母だって修練以外の私に興味はないのだから。


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