026
「入学前より上機嫌じゃないか?」
「あ!シスイさん!」
学校帰り、軽く修練場で今日の復習をしようと忍具のメンテナンスをしていると背後から声がかかる。よっ、と片手をあげるその仕草ですらキラキラして見えるのは我ながらどうかと思うけれど。
「学校でなんかいいことあったのか?」
「はい。私にとってはすごく嬉しいことです」
「へえ。教えてくれよ」
「実は…」
私は磨き終わった手裏剣を彼方に立てた的に投げる。今まで何度も外して来たそれは、軽快な音を立てて的に突き刺さった。自信満々に言ったはいいものの不安だったため一気に安堵する。
「的当て、褒められたんです!よく練習したなって!」
授業で行った的当て、最初はできないって思っていたけれど、シスイさんに教えてもらったことを思い出して投げたらなんてことはなく簡単に刺さったのだ。流石にサスケくんみたいにど真ん中とはいかないが、刺さったというだけでも私とっては大躍進で、担任のイルカ先生は私のそんな気持ちを理解していると言いたげにめいっぱい褒めてくれた。相変わらずナルトくんに対してはそっけないけれど、それ以外は非常にいい先生だ。
「よかったじゃないか!ほら見ろ、努力したおかげだろ?」
「そうですね……きっとシスイさんがお教えくださるから、頑張れたんです」
確かに少しは私の努力もあるかもしれない。でもそもそも努力したのはシスイさんのおかげだ。私が頂いた言葉も手に入れた力も全部シスイさんに基づく賜物。全て私の体に刻まれている。
「謙虚だなあ」
「謙虚じゃなくて事実です!」
「少しは自分も褒めてやれよ」
「いいえ、それはお門違いですよ」
「どれだけできることが増えてもそういうところは変わらないな」
「褒めてます?」
「褒めてるよ!」
しょうがない奴だな、とシスイさんは笑って、私の目の前にしゃがみこむ。そしていつものように頭を掻き撫でてきた。
「お前が自分を褒めない分、俺が褒めるしかないな!」
「わわっ、髪飾りが取れますっ」
あまりにもワシャワシャと撫でられるものだから髪飾りが一つかしゃんと落ちる。右側だからこれは…
「これ、どっちのかわかるのか?」
シスイさんはそれを拾うと私に差し出してくださる。
「…」
私は彼の問いに首を振った。胸が、ざわつく。
「全く瓜二つなので、見分けがつかないんです」
私の苦笑にそれもそうだなと笑うシスイさん。
その笑顔に裏を探してしまって、突然不安になる。
見分けがつかないとか、嘘だ。
彼に手により落ちたこれは、紛れもなくシスイさんがくださったものなのだから。
back