025

「き、緊張したぁ…」
「そうかぁ?」

ついに訪れたアカデミーの入学式。無事に終えた私たちはふらふらと帰路につく。なぜかサスケくんは不安げな表情をしているし、ナルトくんはやっぱり遠巻きに見られてるしでどっと体力を持っていかれた気分。それに比べナルトくんは大して変わらないから、どこでこんなに肝が座ったものかと嘆息。

それにしても…、担当の先生のナルトくんを見る目。あれは完全に距離を図っているものだった。やっぱりあの先生もナルトくんを化け物だとか言うのだろうか。それは…私だって嫌なのに、きっとナルトくんは比べ物にならないほど辛い。
これから卒業まであのままだと思うと少し心配だ。隣の席の男の子もなんだかやる気がなさそうだったし…。そう思うとつい溜息が漏れる。

「さっきから、はぁー、はぁー、ってそればかりだってばよ…」
「だって…」
「何がそんなに心配か知らねえけど、大丈夫だって!」
「またナルトくんはもう…」

本当に、私の周りの人たちは根拠のないことを自信満々に言う。それに救われてしまっている私も私だが…。なんだかんだ心が軽くなってしまった私は怒る気も失せて前を向く。やっぱり、ナルトくんとだからこんなに楽なのだろうか。

だとしても…あのサスケくんの様子がどうしても突っかかる。ちゃんとフガクさんはいらしたみたいだけれど、何か心配事でもあったのか。

「ながれ…?」

考え事をしていたのがバレたのだろうか、ナルトくんが覗き込んでくるその姿に私の体は反射的に動く。

「用事ができたから先帰ってて!」
「ええ!?い、いきなりどうしたんだってばよ!!」
「すぐ終わるから大丈夫!!」

駆け出す背中にかかる声。私はまるでそれを振り切るように走る。今は一刻も早くサスケくんに会いたかった。

「あんなに一生懸命…。本当に何があったんだってばよ」




「サスケ、くん!!」

まるで討ち入りのようにうちは家に飛び込む。玄関の前には今から中に入ろうとしているのだろうフガクさんとサスケくんの背中があった。

「ながれ!?」
「ん?君は…」
「こ、こんにちはフガクさん!サスケくん借ります!」
「え、ちょ、ながれ!?」
「そうか。夕飯には帰ってこい」

ぺこりと一礼し、サスケくんを引っ張り門を出る。なんの作戦もないけれど、とにかくサスケくんを連れていかないといけない気がした。だって、あんな表情のサスケくん初めて見たんだ。

「どこ行くんだよながれ!」
「知らない!」
「知らないって、はぁ!?」
「ここじゃないどこか!」
「っ…!」

無理矢理にでもサスケくんを引きずるその腕を、彼の手によって叩かれた。離れた手は虚空を舞い、振り向くと彼の怯えた目がずきりと胸に突き刺さる。

「サスケ、くん」
「今日のながれおかしい」
「ちが…」
「だって、いつもそんな目で俺を見ないだろ!」
「え…?」

彼の瞳に映る私と目が合う。ひどく悲しい顔を、哀れんだ目をしていた。

「違うの、私は」

サスケくんが困っているなら助けたくて、不安なことがあるなら話を聞きたくて、力になりたかったんだ。今の私ならきっと卑屈にならずに話を聞けるから。シスイさんに自信を頂いた私なら…って。なのに…。

「みんな、みんな前を歩いてる……遠くに行っちゃう……。おれだって、すすみたいのに!ながれまで、遠くにいこうとするなよ!!!」
「ぁっ…」

彼が抱く不安が、ズキンと突き刺さる。
初めてだった、彼にこんなことを言われたのは。それもそうだ、いつも前を歩いていたのはサスケくんなのだから。だから…こんなこと言われるなんて思わなかった。

「サスケくん…わたし…」
「………ごめん」
「ううん…わたしの方こそ…」

気まずくなった私たちはお互いに視線を下げた。人通りの少ない通りでよかったと心底安心する。

「ねえ…サスケくん」
「なんだよ」

とぼとぼと歩き始める私たちの間を静寂が包む前に声をかける。そっけない返事に沈んだ様子がひしひしと伝わってきた。

「さっき言ってたのって、イタチさんのこと?」
「え…?」
「遠くに行くとか、そういうの」
「………そう」
「そっか…」

確かにイタチさんはいつも遠くにいる。私がシスイさんに感じているものと一緒だ。憧れで尊敬、ああなりたいと願うもの。きっとそれが少し不安につながっただけだ。
私は恐る恐る彼の頭を撫でた。

「ながれ!?」
「大丈夫、イタチさんはサスケくんを置いて行ったりしないよ」

周りに感化されたのだろうか、つい私もそんな根拠のないことを言ってしまった。それでも、「そんなの知ってる!」と笑う彼を見ているとこれもいいかもしれないと思えた。

きっときっと大丈夫。
イタチさんも…、それにシスイさんも。
私たちを置いて行ったりしない。
少なくとも私はそう信じている。


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