022
「はっ、はっ」
できた!
できた!できた!!
「〜〜っ!」
私は走りながら手にした包みをぎゅっと抱きしめる。
あれから何度かうちは家に通ってついに綺麗におにぎりを握れるようになった私は、特に綺麗なものを選りすぐって弁当に詰めた。早く早くと焦る思いからか、自然と足が速くなる。
「修練場まで行ってきます!!」
里の門を管理する中忍さんにそう告げて門を抜ける。どんどんと景色は緑色に侵食されていく。慣れた道、転びそうなところは避け、速度が落ちないように急ぐ。
「はぁ……はぁ……」
しばらく走り続けてついた修練場の入り口にシスイさんはいない。そんなのいつものことだ。
しかしいつもとは違い、地下には降りず近くの岩場に腰かける。こんな状況で一人稽古なんてできる気がしない。何刻でもここで待とう。
一分一秒が長く感じて仕方なかった。
「…………はぁ…」
空は夕暮れに染まっている。まだシスイさんはいらっしゃらない。
もしかして任務中だろうか。今日はこれない日だろうか。そりゃあいつも来れるわけではないし、勝手に私が期待しただけでシスイさんにそれは関係なくて…。
「馬鹿みたい…」
口をついて出た言葉はそんな悪態で、私は思わず膝を抱えた。もう無理かもしれないってわかっているのに抱えた包みがやけに重くて腰が上がらない。
もう少し、あともう少しだけ。
もしかしたら来てくださるかもしれない。
ふらっと寄ってくださるかもしれない。
ちらっとでも見てくださるかもしれない。
わずかに残る淡い期待に、私は祈るように、縋るように目を閉じる。
「ながれ…?」
かかる声に私はばっと顔を上げた。
「外で、どうした…?」
そこに立つのはずっと私が望んでいた姿。
任務服を着込んだ彼は、見まごう事なきシスイさんだ。
「っ……!!」
喜びのあまり声にならない。
そんな私の様子に気付いてか、シスイさんはそばに寄ってくださった。
「お、おい、大丈夫か!?」
彼の言葉に頷くも、目尻からは自然に涙が溢れる。それを見たであろうシスイさんはぎょっと肩を揺らした。
「な、ななないて…っ!ほ、本当に何があったんだ!?」
「なんでも、なくて…っ。ただやっぱり…」
好きだなあって。
口をついて出そうになった言葉に、ふと涙が止まった。
「ながれ…?」
言葉を詰まらせた私にシスイさんは心配そうに覗き込んでくる。
そっか。
やっぱり、そうなんだ。
私、シスイさんが好きなんだ。
あの時シスイさんの笑顔が浮かんだのも、今こうしてずっと待っていれたのも、全部彼が好きだから。
師弟なのに、失礼かもしれない。年の差だってあるし。きっと、というか絶対、シスイさんは私をそういう風には見てくださらないけれど…。
それでも、私は、彼が好き。
それだけは、変わらない。
「シスイさん…」
「お、おう?」
「これ」
私は抱えていた包みを彼に差し出す。
思いを込めたんです。
あなたに見て欲しくて。
あなたに食べて欲しくて。
少しでも追いつきたくて。
だから−−。
「日頃のお礼です!…ただの、おにぎりですけれど…」
まるで押し付けるように彼にそれを渡す。
好きなんてそんな感情、一息に飲み干して。
「頑張って作りました!どうか…どうか、食べてくださいませんか?」
あなたがそうやって笑ってくださるならば、私はどれだけでも頑張れます…
シスイさん。
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