021

掌の中で何度も形を変えるそれに、私はゆっくり息を吐いて集中する。じーっと見つめながら握ると、隣に立っていたミコトさんがクスクスと笑う。

「ただのおにぎりよ、そんなに焦らなくても大丈夫」

今私が立つのはうちは家の台所。先日料理に失敗した私は、どうしても諦めきれずミコトさんに頭を下げて教えてもらっている。
最初はおにぎりから、なんて言われてむくれもしたがこれが結構難しい。私の小さな手じゃうまく形ができなくて、力加減を間違えると指の隙間から米粒がこぼれてしまう。具を入れるとさらに難敵になってしまって、さっきから何度もぐちゃぐちゃなおにぎりが完成している。

「どうせなら…綺麗なのを作りたいんです!」
「あら…。ふふふ、ながれちゃんも年頃ね」
「どういうことですか」

まるで幼い子供を諭すような言い方に唇を尖らせてしまう(事実幼いけれど)。するとミコトさんはおにぎりを握る私の手を見つめて微笑んだ。

「好きな人、いるのね?」
「へ!?」

突然すぎる言葉に強くおにぎりを握ってしまい、まるで溢れ出した水のようにお米が床に落ちていく。あらあらと彼女は笑って、お米を拾う。何も言えなくなった私は、ただ呆然とその光景を見つめていた。

「な、なにを…っ」
「うちは男ばかりだから忘れていたけれど…、女の子って成長が早いものね。ながれちゃんぐらいなら年上の人かしら」
「っ!」

そんなことはないと否定できたらよかったのに頭の中にあの笑顔が浮かぶから、私は熱い顔を隠すこともできず視線をそらす。「普通のことよ」ミコトさんはお米を拾い終わると、もう一回ね?とジャーの蓋を開けた。

「ミコトさんは…」
「んー?」
「ミコトさんは、フガクさん以外で年上の人を好きになったことってありますか…?」

結婚されてる方にこんなことを聞くなんて馬鹿げているかもしれない。それでも私にとって頼れる女性は彼女しかいなくて、だからつい甘えてしまうのだろう。
ミコトさんは視線を斜め上に投げ、しばらく考え込む仕草を見せると突然笑みを浮かべた。

「あの人と出会う前の恋なんて、忘れたわ」
「え…?」
「少なくとも、今私の好きな人はあの人だし、昔好きだったかもしれない人よりうんと大切なのよ。もちろん、イタチやサスケ……ながれちゃんも。……だから、忘れた」
「ミコト、さん…」

ああ、この人は本当にフガクさんのことを愛しているんだ。きっと、私の母様もずっと一途に…。

「私も……いつか、ミコトさんみたいに誰かを一途に愛せますか…?」
「そう言われると照れるわね…」

ミコトさんは私の目を真剣に見つめると、ふっと息を吐くように笑った。窓から差し込む陽光に照らされたその表情は、息を呑むほど美しくて、


「ええ、きっと。必ず」


私は、そっとその言葉を胸にしまいこむのに精一杯だった。


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