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「………」
「あ、おはようナルトくん」

眠い目をこすって、リビングに入ってきたナルトくんに挨拶をすると首を傾げられる。「何してんの?」と言いたげな彼に私は胸を張って答えた。

「料理!!」






「なあ、そんな落ち込むなって…」
「………」

机の上に置かれた三分間砂時計がさらさらと落ちる。ナルトくんは心配そうに私の肩を叩いてくれた。

結果は惨敗。

せっかく買ってきた食材を全て消し炭にしてしまった。あんなに火遁の扱いはうまく出来るのに、自分の体から離れた火は怪物のように複雑だ。

どうしていきなり料理なんかと聞かれたら困るのだが、まあ大きな要因としてあげられるのは、再来週に迫ったアカデミーの入学式である。アカデミーに入学すると生活習慣がガラッと変わるだろうし、ナルトくんと私の健康をうまくコントロールする必要があると思ったからだ。ちなみにいつもナルトくんはカップ麺、私は市販のお弁当を食べている。不健康この上ないことは重々承知。
まあ、それだけが理由ではないのだが…。あとは、シスイさんに作って差し上げたかった…とかそういう大っぴらにできないものだ。特に、こんな腕前ではとてもじゃないが言えない。

砂が全て落ちきると、ナルトくんは元気いっぱいにカップ麺の蓋を外して手を合わせた。

「いただきまーす!」

私もそれに合わせて「いただきます」と呟いて弁当の蓋を開ける。これがいつもの食事風景。時々外に出て一楽というお店でラーメンを食べたりもするが、私もナルトくんも余りお金を使うタイプではないため、それ以外の外食はない。倹約、というわけではなく使い所が全くと言っていいほどないのだ。まあ、三代目様から頂いている大切なお金なので、使わないことに越したことはないけれど。

「もう直ぐだね、アカデミー」
「おう!」
「ナルトくんは楽しみ?」
「ちょっと、こわい」
「え…?」

いつもの勢いをなくし、箸を止めるナルトくんに唖然とする。へへっ、と照れたように笑う姿は少し胸が痛くなった。

当たり前だ。
今までは自分一人、私たち二人だったかもしれない。でもこれからは集団の一員となって、みんなの中で生きていくのだ。ナルトくんには初めてのことだろう。怖いと感じるのも頷ける。

「大丈夫だよ!」
「ながれ…?」
「ナルトくんには私がついてるから!!」

例え誰がナルトくんをバカにしても私が言い返す!
そう自分に言い聞かせる。曲げないように、折れないように。

「じゃあ、ながれはおれが守るってばよ!」
「!!」

だから、そんなこと言ってくれるなんて思っていなくて、素直な言葉に頬が熱を持つのを感じた。「ありがとう…」俯いて小さくなってしまった感謝の言葉を特に気にするでもなく、ナルトくんは再度ラーメンをすすり始める。私も上がる口角をなんとか抑えて食事を再開する。

早く再来週になればいいのになぁ。


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