017

「ちょっとこれは…」

流石に取り繕えないかもしれないと自分の姿を見て思った。修練用に使っていた動きやすい服は穴だらけだし、小さな傷がたくさん重なって出血もひどいように見える(実際はそうでもない)。シスイさんもやってしまったと言いたげな顔をされているし、ナルトくんになんて言われることか…。

「悪ぃ…。余りにも鮮烈な豪火球を使ってくるからつい本気で対応しちまった…」
「…! も、もうその言葉で十分です!」
「そうか?そう言ってもらえると救われるよ」

シスイさんは苦笑を浮かべてから「そうだ」と呟いて服を脱ぐ。その下は鎖帷子のようなものを着ていたようだが、余りの衝撃に肩がびくりと跳ね上がった。

「え、ちょっ」
「流石にそれで里に戻るのは嫌だろう?着ていけ」
「そ、そんな!!悪いです!」
「いいや、ながれは小さくとも女の子だろ?こんな格好させられない」
「でも…っ」
「というか、俺を不甲斐ない男にしないでくれ、な?」
「!!」

そう言われて仕舞えば受け取らずにはいられない。「じゃあ…」おずおずと両手を差し出すとにっと笑ったシスイさんにすんなり服を被せられてしまった。
シスイさんが着るとかっこいい服も、私が着るとワンピースのようになる。ほのかな温もりとシスイさんのにおいに気付き、非常に恥ずかしいのだけれど、それと同じぐらい嬉しいから何も言えない。

「あ、ありがとうございます…」
「その服は血がつくだろうし、なんなら処分してくれて構わないからな」
「え、いえ、あ、た、大切に使わせていただきます…っ」
「それはそれで照れるな」

カラカラとシスイさんは笑って私の頭を掻き撫でる。それももう慣れたもので、えへへと笑みがこぼれた。

「じゃあ、今日はこれで終わりだ。いつもみたいに門までしか送れないが大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます…」

門まで送ってくださるのすら既に申し訳無いのだから、そんなこと気になさらなくてもいいのに。というか、任務の合間にここに来てくださっているんだ、頭が上がらない。

それにしても…やっぱり気になる。

「シスイさんは…どうして私なんかに稽古をつけてくださるんですか?」

ずっと抱いていた疑問。今なら聞けるような気がして、階段を上るその背中へ言葉が詰まる前に勢いだけで投げかける。
彼は私の言葉にピタリと足を止めると、淡々としたトーンで呟いた。

「今は…これぐらいしか俺にできることはないからな」
「え…?」
「ながれ」

振り向いたその表情は入り口から降り注ぐ陽光に遮られて見えない。逆光の中うっすらと見える口元が、まるで痛みに耐えるかのごとく歪んだ。

「お前はきっとこれから「俺たち」に振り回されると思う。その時、少しでも後悔しない選択をできるように…そして……」


託したいものがあるからだ。


彼の瞳が赤く輝いたような気がした。
シスイさんの言葉の意味はよくわからない。それは私が無知だからなのか…、それとも漠然と抱いていた不安感を肯定されたような気分に陥り、逃げたくなったからなのか。

「シスイさ…」
「さあ、いくぞ」

伸ばした腕は空を切り、行く当てもなくそして力なく垂れ下がる。
私はなんて無力なのだろうか。


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