016

「よぉ、やってるか?」
「あ!シスイさん!!」

あの日から度々シスイさんは我が家の修練場に訪れるようになった。どう言う意図があるのかはわからないが、今度こそしっかりと稽古をつけてもらえているので気にならない。

最近は昼までナルトくんかサスケくんと遊び、それから夕方はここで修練していることが多い。この前傷を作って帰ったらナルトくんに何か危ないことはしていないかと心配された。大丈夫だよと笑っても、泣きそうな顔をされるので私も泣きそうになったのを覚えている。
特に隠す必要もないのだが、つい修練のことを伏せたので、言い出しにくくなってしまった。まあいずれ話すだろうし、なんなら話す理由もないのでこのままでも問題ないかなとは思っているが。

稽古はチャクラコントロールや、忍術の習得、簡単な忍具の扱い方からハンデ付きの手合わせまで様々で、正直私にはキツいのだが、シスイさんが意気揚々と教えてくださるのでなんとか諦めないように踏ん張っている。
火遁以外のチャクラコントロールは苦手だし、忍術の習得にも時間がかかる。不器用すぎて忍具もうまく扱えなくて、手合わせなんて恥ずかしい限りだ。何もかもうまくいかない。それでも彼が教えることをやめないのなら、私が逃げ出すことはできない。少しでも彼に報いたいから。

「はぁ…はぁ……」
「息が上がっているが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」

今日の稽古はチャクラを足に練り壁を走ると言うもの。つまりチャクラコントロールである。火遁で自由自在にチャクラを操れるのだから、その応用で出来ることは多いから少しでも身につけたほうがいいとシスイさんはおっしゃっていたが、少しどころか全然できない。

「もう一回…っ」

再度足にチャクラを集中させる。これ自体は簡単に出来るのだが、一定量を保って扱うのが非常に難しい。
なんとかいけるか?というラインを見つけて維持し、助走をつけて壁に向かって走った。
あと少しで壁に足を向けてと一歩を踏み出した瞬間体がふらりと傾く。

「!?」
「ながれ!!」

チャクラ切れかと認識するより早く、体をシスイさんに支えられた。がっしりとした腕に抱えられ、眉根を下げた彼はため息をついた。

「ご…ごめんなさい…」
「ながれは自分のチャクラ保有量を把握できていないみたいだな」
「そう…ですね」
「慣れるまでは無茶をするべきじゃない。焦らずやっていこう」

な? 優しく微笑む彼に心が痛む。
そうだ。私焦っているんだ。
シスイさんに褒めて欲しくて。頑張ったって言って欲しくて。報われたくて、自分のことばっかり。

「はい……ごめんなさい」

少しだけ滲んだ涙をぎゅっと我慢する。「今日はもう帰ろう」とシスイさんはいつものように私の頭を撫でた。

でも、私は時々不安になる。
なぜ彼が私に稽古をつけてくださるのか。
なぜこうも本格的なものばかりなのか。

「……」

私を抱えて階段を上るその双眸は一体何を見据えてるのですか?
こんなに側にいて、触れているのにまるでここにいないかのように感じて焦燥にかられる。
気のせいだと己に嘯いて、逃げることしか私にはできなかった。


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