015
小川にて鼻先の火傷を軽く治療したのち、修練場に戻る。軽く体をほぐしたシスイさんが、「じゃあ、始めるか」と笑った。
「お、お願いします!!」
まさかシスイさんに稽古をつけてもらえるとは…。
うちはといえば火遁…と言うイメージは誰にでも色濃くあるものだろう。写輪眼という血継限界と火遁はうちはの十八番である。
「じゃあ、一回豪火球を見せてもらおうか」
「は、はい!」
私は慣れた要領でチャクラを練り、印を組む。大きく息を吸い、前方に火の玉を吐き出した。
「火遁・豪火球の術!」
私の身長など軽く越した火の球が、とんでもないスピードで空間を裂く。そして修練場の壁に当たると弾けて消えた。壁はチャクラで強化してあるものの、何度も私の豪火球を受けてボロボロだ。
「へえ!これは凄いな!」
「ほ、本当ですか!?」
一部始終を見守ってくださっていたシスイさんは軽く手を叩いてこちらに歩み寄ってきた。そして冗談なのか本気なのかわからない調子で「これでいつでもうちはのものになれるな」と頭を撫でてくださるものだから恥ずかしさでなにもいえない。
「だが、ながれは元々のチャクラ量が少ないからな…こんな大玉は毎回打てないだろ」
「そう…ですね…。実を言うともうすでに何発か打っていたので今のが最後です…」
私の言葉に目を丸くしたシスイさんは、数秒の間を開けて「じゃあ、稽古も何もないな」と苦笑された。すごく申し訳ないことをしたが、せっかくのお言葉だったので言い出せないでいたのだ。「ごめんなさい…」と謝ると、言い出したのは俺だから、とまた頭を撫でられた。私の頭は撫でやすいのだろうか。
「それにしても、本当に凄い火遁だな」
「私には星遁が発現しなかったので…その反動みたいなものではないでしょうか」
「それもあるだろうけれど、単にお前の努力が報われたんだと思うぞ」
「………っ」
多分、シスイさんには何気ない言葉だったのだろう。
私にとっては、一番欲しかった言葉であったのだけれど。
一族の人たちは私の火遁を見ても星遁が星遁がとそればかりであった。母も、それほどのものが打てるなら星遁も打てると火遁自体は見ていなかったし。
だから、私の火遁を見る人はどこにもいなかった。それが今こんなところで見ていただけるなんて。
「ながれ…?」
視界が滲み、嗚咽が漏れる。シスイさんの心配そうな声に大丈夫ですの意を込めて首を振る。
ただ、嬉しかった。
やっと忍である私を見つけてもらえたようで。
「大丈夫だ。俺がちゃんと見てるから」
優しく頬を包まれ、彼の額が私の額とくっつく。固い感触に暖かい温度。その優しさと自信に溢れた瞳がまるで私の心を溶かすかのようで、目が離せない。
「はい……」
彼の手に自分の手を重ねる。
私の端的な、しかし思いを込めた一言にシスイさんはよしっと笑って再三、頭を撫でられる。なんだかもうそれすらも心地よくて、自然と笑みが浮かんでいた。
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