013

先程からやんちゃ坊主に振り回され駆けずり回っている中忍さんに私は頭を下げる。

「す、すいませんナルトくんが…」

今日は里中がため息をつく1日となりそうだ。

朝からバケツとペンキを手にした彼は、里中を落書きで染め上げていく。その後を追うように私は頭を下げ走っていた。

「謝ってくれるのはいいけど…こうなる前に止めてくれた方が嬉しいよ…」
「おっしゃる通りです…申し訳ありません」

中忍さんのお言葉が胸に刺さる。
落書き自体を止めることは私にはできない。
彼にとってこれは自分を肯定するための行為なのだから。だから、こうして少しでも私がカバーしなくちゃ。こんなことで許されるなんて思っていないけれど、しないよりはマシだから。

ナルトくんは小さな体をうまく使って、路地の狭い道を逃げ回っている模様。時々聞こえてくる「はーっはっはっは!!」という笑い声は完全に悪役そのものだ。

「すいません!本当にすいません!!」

町の人たちの冷ややかな目が怖くて、余り顔を上げないように走る。そんな目で見ないで、なんて言えなかった。

「本当に迷惑よね…」
「あんまり言うと、化け物が出てくるわよ」
「うちの子に近づいて欲しくないわ…」

ナルトくんはそんなことしません。化け物じゃありません。次々に耳に入る悪態に反論してやりたい気持ちが湧き出る。しかし今それをしたところで火に油なのは分かりきっていた。

「っ…!」

情けなく、目元が涙で濡れる。それをこぼさないようにグッとこらえて、逃げるように走った。

「はぁ…はぁ……」

謝り倒しで走りまくって、しかしついに体力もなくなり、私は大通りの隅の方で息を整えていた。私がこんなボロボロになっているのに、当のナルトくんは未だに元気だ。

「も…むり…」

気付くとそんな言葉が漏れている。
このままじゃいけない。体力つけないと…。

そういえば…家を離れてから一度も星遁の修練をしていない。このままじゃ本当に一生発現しないだろう。そんなの嫌だ。
頑張らないと。私だけ生き残った意味がなくなってしまう。楽しいことばかりに逃げていたらダメ。

頑張るのも努力も大嫌いだ。だって何一つ報われないから。それでも、ただ一人生き残ったものとして、やらないといけない。

だから今は…。

「…よっし!」

声に出して気合いを入れる。
今は走ろう。大切な友達のために。彼が一人じゃないと証明するために。そして何より私のために。
いつかナルトくんが認められる日が来ると信じて、私はそのための努力を惜しんではいけない。彼が火影になる姿をこの目に焼き付けるために、私は彼から目を離してはいけない。たとえ世界の全てが敵になったとしても、私だけはそばにいなければいけない。
それぐらいしか、私がナルトくんにできることはないのだから。


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