012

「ただいまー!」

予定よりも遅くなってしまったため、若干駆け足で帰宅する。しかし、家の中は電気がついていないのか薄暗く、ナルトくんがいるのかすらわからない状態だった。

「な、ナルトくん…?いるの…?」

恐る恐る声をかけると、部屋の隅の方で人が動いた気配。ただならぬ雰囲気を感じて駆け寄ると、ナルトくんは膝を抱えて小さくうずくまっていた。

「ナルト…くん?」
「ながれ…」

澄んだ青い瞳に言葉がない。どうしたの、何があったの、聞きたいことはたくさんあるのに、呼吸すらままならないように感じた。
とりあえず電気をつけなければ、と彼から離れようとすると、いきなり足首を掴まれて転びかけた。「電気つけるだけだから」と説明しても彼は何も言わず、ただ足首をぎゅっと握ってくる。

「ナルトくん、あのね、私は…」
「ながれ!!」
「きゃ!!」

とりあえず手を放してもらおうと彼の目の前にしゃがみ込み、できるだけ目を見て落ち着かせようとすると、ガバリと顔を上げたナルトくんに抱きつかれた。その勢いがあまりにも強く、バランスを崩した私はなすすべもなく床に組み敷かれることとなる。
ぎゅうぎゅうと、私の胸元に顔を埋めて、ひたすら何かをこらえるように力を入れてくる彼に何も言えない。やり場のない手に不甲斐なさを感じて、私は彼の頭を撫でた。

「なんでおれは………なんで…」
「……」

小さく呟く言葉はまるで独り言のようで、私はひたすら耳を傾けるしかない。ああきっと、また誰かに何かを言われたのだろう。もしくは、傷付けられたか。…その原因を私は知らない。だけれど、彼もまた知らなかった。
いたずらが好きかもしれない。やんちゃすぎるかもしれない。それがなんだと言うのだろう。どうして彼は、化け物なんて言われなければならないのだろう。

「………ぜってえ……!…ぜっっっってえ認めさせるってばよ…っ」
「………」
「おれが、火影になってっ!誰にも文句言わせねえ!すっげえやつになるんだっ!!」

上ずった泣き声で、固く決心するように彼は言う。言ってることはメチャクチャなのに、なぜか納得してしまう強さがあって、きっと私の言葉はいらないんだとわかった。
私ができるのは、こうやって支えることと、耳を傾けること、そして見守ること。例え里の誰もが彼を見なくとも、私だけは彼から目を離さないようにしなければ。

「うん…私はずっと見守ってるからね…」
「おう……っ。当たり前だろ!ながれは、とくとうせきでおれが火影になるとこを見るんだからな!」
「あははっ、待ってる」

やっと顔を上げた彼は目に涙を浮かべながらも、歯を見せて笑ってくれた。


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