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「じゃあ、行ってくるねナルトくん」
「おう…」

少し不満げな彼に思わず苦笑が漏れた。そんな顔されると行きづらくなるからやめて欲しい。
「ちゃんと帰ってくるから」今や当たり前になった約束に、彼は「ぜったいぜったいぜーーーったいだってばよ!!」と必死の模様。私が帰ってこなかったことなんてないのに。
多分…信用とかじゃなくて単にこういうのに慣れていないのだろう。そう思うと無下に出来なくて、私は再度「行ってきます」と告げ家を出た。早めに帰らなければ。

今日はうちは家に行くつもりだ。最近我が家のことや私のことでバタバタしていたため、ろくに挨拶もできていなかったから。

先日、我が一族の葬儀はつつがなく終わった。まともに葬儀というものを経験したことがなかったので、ほぼ三代目様に任せきりになってしまったことが申し訳なかった。それから…周囲の視線が嫌で嫌で仕方なかった。好奇の目、哀れみの目、そして時々突き刺さる「化け物を見る目」。一人だけ生き残るというのはこういうことだと理解した。
その中でもうちは家の方は優しく、こんな私に言葉をかけてくれた。あの時は本当に救われたのだけれど、お礼が言えていない。今日はそれを言いに行くことも含まれている。…単純に、サスケくんと遊びたいというのもあるけれど。

うちはの門の前に着くと、そこには久しぶりに見る背中があった。あっているかどうか、記憶を辿りながら名前を呼ぶ。

「シスイ…さん?」

だったはず…。
一度里の中でイタチさんと話されている時に会ったっきりだったので不安だったのだが、彼がこちらを向いてくれたので一安心する。

「ながれ、か?」
「あ、お名前覚えてくださっていてありがとうございます」
「いや、それはこちらこそだろ?まだ小さいのに賢いんだな」

バカにするでもなく素直に褒められ、思わず頬が熱を持つ。以前の印象からとても真面目な方だとは思っていたが改めて再認識。

「今日はどうしたんだ?」
「あ、少し用事が…」
「サスケと遊びに来たのか?」
「それもあります…」

お礼を言うためになんてその家の人に告げるのは躊躇われて、笑って流しておく。きっとシスイさんはなんとなく察しているだろうけれど、まるで何も知らないかのように「そうか」と目を細めてくださった。

「シスイさんはどうしたんですか…?もう用事は済まれましたか?」

シスイさんと里の中で会うのは割と珍しい。彼は里の暗部の一員であるから、なかなか表には出てこないのだ。「休日ですか?」と聞けば「そんな感じだな」と曖昧に返されて二の句を継げない。

「特に用事はない。もう、帰るところだ」
「そう…ですか」

シスイさんは私のような子供にも一礼をしてから姿を消す。流石暗部。もう気配もなくなってしまっている。

シスイさんは用事はないとおっしゃっていたが、休日だからと友人であるイタチさんでも誘いに来たのだろうか。イタチさんは甘味処巡りが趣味と言っていたし、二人で…と言うのも何か違う気がする。それに、シスイさんのあの雰囲気…、友人と遊ぶような感じではなかった。なにか…嫌な予感がする。

………やめた。
これ以上暗くなるのはやめよう。なんの根拠もない。
私は深く息を吸って、うちはの敷居を跨いだ。


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