日課という訳では全くなかった。ただ本当に気まぐれで、財布と携帯だけを持って外に出ただけだった。

土曜日の夜は、なんとなく夜更かしをしたくなる。普段から早く寝ている訳ではないけれど、次の日が日曜日で休みということもあり、寝ようだなんて到底思えなかった。どうせ日曜日の朝なんて何もすることがないんだし、録画したまま見ていないで溜まってしまったドラマでも見てしまおうと思った。家族にも消せと言われているし、いい機会だ。
時刻はまだ22時前。高校生が出歩いていても、補導はされないだろう。そして私は、財布と携帯をポケットに詰め込んで近くのコンビニへと足を運んだ。まさかそこで、御幸に遭遇するだなんて誰が想像出来たことだろうか。

「……女の子がこんな時間に一人で出歩いててもいいのかよ?」
「え、御幸!?ていうか、寮の門限って意外と遅いんだね。」
「はは。俺の話は無視なのな」
「はは。家が近いもので」

振り返って直ぐに目に入ったのは、いつもの制服や練習着などからは想像もつかない様なラフな格好をしたクラスメイトだった。クラスメイトというと、あまり仲良くないイメージが湧く。私と御幸はというと、そのイメージ通りあまり仲はよくない。いや、仲が悪いわけではないから、関わりが浅いと言った方がニュアンス的に正しいのかもしれない。
そんな関わりの浅い御幸のことが、私は好きな訳でして。いつもと違う御幸の姿に、少しだけドキリとしたことは御幸本人には内緒だ。それを本人に伝えることは、告白しているのとほぼ同然だし。

「こういうことって言いたくないんだけど、あんま遅くに外出るなよな」
「……え、どうしてよ?」
「送って行くから早くしろよなー」
「はあ?ちょ、御幸!?」

訳が分らない。思わず溜め息をつきそうになったけれど、他の人から変に思われるのも嫌だったし、吐き出す前に飲み込んだ。大体、なんで御幸にそんなこと言われなくちゃいけないのさ?
そりゃあ、好きな人にそんなことを言われて喜ばない筈もない。嬉しいんだけれど、勘違いしそうになる。さっきも言ったけれど、私と御幸は関わりが浅い。だから、叶わないなんて分かりきっていることなのに、期待しちゃうんだ。

……なんて。何言ってんだ私。折角御幸が送ってくれるんだから、早いところ買い物を済ませて御幸の元へ向かおう。こういうときに限って、期間限定のアイスとかお菓子が売っているから腹が立つ。


「あれ。思ったより早かったな」
「だって、待たせたら悪いし」
「急かすつもりはなかったんだけど、なんか悪いな」
「いつも優柔不断で全然決められないから、かえって助かったよ」
「はは!そりゃあ良かった」

思っていた以上に御幸が普通過ぎて、正直戸惑った。そこまで仲がいい訳でもないのに家まで送るだなんて、もしかしたら御幸はたらしなのかもしれない。
……いや。御幸に彼女はいない筈だし、たらしなんかだったら、倉持だって友達ではないかもしれない。だったら、どうして「遅くに外に出るな」とか「送っていく」なんて言うのだろうか?私のことが好きだからかもしれない。なんて、冗談でも自意識過剰でもそんなことは言えたもんじゃない。そんなことを考えたところで、ふと御幸に名前を呼ばれた。

「ぼーっとしてると置いてくぞー」
「うん、ごめん」
「大丈夫だって。ちゃんと話すから」
「え、話す……?」

御幸は私の話を聞く様子もなく、私の手からコンビニの袋を取った。1.5リットルのペットボトルが二本も入っているというのに、御幸はそれを軽々と手にぶら下げている。さすが野球部……!

申し訳なく思い、袋に手を伸ばせば、その手はいつの間にか袋を反対の手に持ち替えた御幸によって包み込まれてしまった。恥ずかしくなって握られた手を離そうとすれば、御幸はわざとらしく「手繋ぎたかったなら、早く言えよなー」なんて言って、笑い掛けてきた。
どうしてこんなことを、普通にやって退けてしまうのだろう。もとの顔がいいせいなのか、こんな恥ずかしいことでさえ様になっているから腹立たしい。なんだか、コンビニに入ってからずっと、御幸のペースに乗せられっぱなしだ。

「ねえ、どういうつもり?」
「え、そんな聞き方しちゃう?」
「だって……手繋ぐとか、送ってくれるとか、期待しちゃうじゃん」
「……え?」
「っ!やっぱ今のなし!忘れて!!」

そんなこと言ったら、御幸だって困るに決まってる。ただの親切でやったつもりが、相手にそんな風に捉えられたりなんかしたら、たまったもんじゃない。本当に今すぐにでも忘れて欲しいものだけれど、そんなに都合よく物事を忘れられる筈もない。このままでは、御幸と気まずくなってしまうのが目に見える。つい口走ってしまった台詞でこんなにも後悔するだなんて、思ってもみなかった。
御幸はというと、私の手を離すことも足を進めることもなく、ただ私のことを見ているだけだ。既に気まずい状況に、喉が渇くのを感じた。いっそのこと、忘れられるくらい酷くフラれたいものだ。

「俺さ、明日オフなんだよね」
「……はい?」
「だから、デートしようぜ。十時に迎に行くからお洒落して待ってろよ」
「ちょ、待って。どういうこと!?」
「はは!寝坊すんなよなー」

気が付けば、私の家のすぐ近くまで着いていて、繋がれていた手は自然と重力に逆らうのをやめた。ぬくもりの消えた手はなんだか物足りなくて、思わず拳を握り締めた。全く状況に追いつけていない頭では、何を考えても無駄だった。
差し出された袋を受け取ろうとするものの、十時に御幸が来るなら今日の夜更かしは中止しなくてはいけない。……いやいや、そうじゃない。頭を振って頭を冷やそうと試みるけれど、頭が冷える気配は一向になかった。デートって、もしかしなくてもそういうことなのだろうか。

赤くなった頬を隠すために下を向いていると、御幸に再び名前を呼ばれた。私はあげると一言だけ御幸に告げると、振り返ることなく家の中へと走った。何もないはずの日曜日の朝に期待してしまっている自分に、少しだけ呆れた。

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