「よっす!今日もチチでっけえーな!!」
「ほんと朝から死ねよ木兎」


木兎光太郎という人間を一言で表すと、"変態でオカシイ奴"だ。さきほどの朝の挨拶でお分かり頂けたように、チチとかでっかい声でほざいている。きっと普段会話してるときもほぼほぼ目線はそこだ。ほぼというか、確実に。

そんな変態野郎はどうしてか、私にばかり構ってくる。木兎は、こんなんだけど部活ではすごいエースらしいし、性格は明るくてクラスでも目立つタイプだ。.........それに比べて、私はというと、特にクラスでも際立った才能もなく顔も普通だし。唯一自慢できるとしたら、この、大きな胸だ。でも私はあんまりこのことをひけらかしたりしたくない。恥ずかしいし、男の目気持ち悪いし。木兎くらいだ、私の胸を堂々と褒めてくる大馬鹿者は。

「なあなあ、お昼一緒に食べねぇ?」
「.........いいけどさ、唐揚げあげないよ?」
「なんでだよ!?オレ別に唐揚げ目的でお前と食べるワケじゃねえよ」
「フーん.........」

お昼時間は、木兎がこうやって話しかけて2人で食べるかそこに私の友達がやってくるかのどっちかだ。今日は、木兎と2人、らしい。

「イッタダキマース!!」

ガツガツとお弁当を頬張る様子を横目に、私も口にいれる。みるみる無くなっていく光景は、何度見ても圧巻だ。モノの一瞬で食べ終わった木兎はイソイソとカバンから何かを取り出した。......これまた、でっかいパン。しかもガッツリコロッケパンじゃねえかよ、すげぇな。またもやすぐに口に入れだすので、もうため息しか出てこない。そろそろ、私もごちそうさまができそうだ。

「...おい、おふぁえそふぇだけでいいのか?」
「...何言ってんのかわかんないけど、おおかたわかったわ。私はこれくらいでジューブン」
「へーー......」

そんなんでどうしたらチチでっかくなるんだよ、という言葉を私は最後まで言わせない。グホッ!?という木兎の声と口からちょっと飛び出したコロッケパン達に心底軽蔑の視線を送ってやった。次また言ったら今度は腹パンですませないからね。




次の日の朝、大事件が起こった。そう、大事件。私にとっては、ほんとに衝撃な出来事。

木兎が、チチって.........言わなくなった。あれほど、毎日毎日罵倒していたにもかかわらずにチチと話していた口が、閉じている。それに、何だか元気もない。どうしたっていうんだよ、調子狂うなあ......。え、調子狂う?いやいやいやいやいや!!スカッとしたでしょ、胸のこと言われて嫌だったんだから。さすがに放課後まで木兎が元気ないので、話しかけることにしてみた。部活時間になる結構前に教室から飛び出すのに、今は机に静かに伏せている。......明らかに、おかしいよ木兎。いや、普段もおかしいけどさ。
そっと机に近寄って、ポンッとたてられた髪の毛に手をなるべく優しく置く。いつもの反応は、ない。

「ぼーくと、元気ないじゃん。どしたの」
「............別に」
「別にじゃないじゃんもう!なんかあったんなら聞いてあげるからさ」
「......だから、別にナンモネェって言ってんじゃん」


拒絶。顔なんか見なくても、雰囲気でわかる木兎の気持ち。お前なんかに話すことは、ないって?心臓が、ズキリと痛んだ気がした。

「なんもなかったらそこまで落ち込まないでしょ」
「............」
「木兎ってば。ねぇ、」
「.....................」
「無視、ですか、そう、ですか」

やだ、なんか声、震えてきた。泣くな、今しんどいのは木兎だ。私が泣いてどうするのよ。
それでも1度溢れだした涙は止まることなく、ボロボロと木兎の頭に落ちていった。滲む視界を必死に弾いて、木兎の髪の毛をわしゃわしゃとはぜる。そこでやっと顔をあげてきたので、何故このタイミングかと恨みながら慌てて私は背を向けた。見られたくない、こんな汚い自分がいたなんて、知りたくもなかった。

「............っ、お前、泣いてんの?」
「っ、泣いて、ない」
「ウソじゃん」
「うっさい!泣いてないっていってんのよ馬鹿木兎!!」
「はあっ?逆ギレしてんじゃねぇ、よ...」

馬鹿木兎と罵倒したのがいけなかったのか、強引に肩を掴まれて無理矢理向き合う形にさせられた。まだ拭いきれてない涙たちは、私が悲しんでいた証。今度は、木兎が苦しそうな表情を浮かべた。

「泣いてんじゃん......ごめん」
「木兎のせいじゃないから...」
「いや、俺だろ」
「ち、が」
「俺のせいにしろよ!!」

は......?とこの空気に似合わない変な声をだしたのは私だ。だって、待ってよ木兎、どうゆうことよ。それじゃまるで、

「毎日お前のこと構ってたの、意味わかってた?」
「......嫌がらせ?」
「やっぱ伝わってなかったかー.........」

あちゃーと残念そうに額を抑える木兎に、いつの間にか涙は引っ込んでいた。それより、パチパチと数回まばたきをする。この状況に、追いつけていない。

「今からいうことは、嘘でもなんでもねぇからな。よーく聞いとけよ」
「な、に待って木兎」
「もう散々待ったんだよ、こっちは」


「ーーーーーーー好きだ」


ドクリ、と心臓が音をたてて、それから。ーーーーそれから、真っ直ぐこっちを射抜いてくる木兎の視線から、逃げられなくなる。まるで、獲物を狙う猛禽類だ。口の中がカラカラと渇いて、言いたいことが言えなくなって、変な汗が背中を伝った。ゆっくりと、いつの間にか肩に置かれた手が頬に滑ってきて、そのまま撫でてくる。いつもなら変態!と払う手が、動いてくれなくて。

「よく言うじゃん?押してダメなら引いてみろっ、てな」
「どこでそんな小悪魔テクを習ってきたのよ.........」
「んーーー秘密だ!」

ニカッと笑う口元が、眩しい。私まで、つられて笑顔になってしまうから羨ましい。
笑っていると、不意に唇に柔らかい感触。突然のことで固まる私を見て、また大爆笑する木兎。.........しばらく、動けそうにない。熱に浮かされて足りない頭で思い浮かんだのは、この教室に人が誰もいなくてよかった、ということだった。

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