もう少し待ってて、お願い 誰のものにもならないで




「ねえ、先生…」

「ん?」

「…何でもないよ」

言いかけた言葉を呑み込んだ。

好きで好きで、しょうがなくて。

でも傷付くのが怖いから、言えなかった。



あの日。

帰り道で、突然の夕立に見舞われた時。

たまたま出掛けていた先生と鉢合わせて、雨宿りした。

雨の匂いが鼻をくすぐる中に、薬の香りがして、先生がすごく近くにいることがわかって。

まるで映画のワンシーンみたいで。

抱きしめてほしかった。

キスしてほしかった。

…でも、言えなかった。



「アカリ、無理はしちゃいけないよ」

「うん」

先生、いつかちゃんと伝えるから。

だから。



もう少し待ってて、お願い
誰のものにもならないで



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