毒林檎の味
「これは違うの?」
「うーん…確かに赤くて艶々してるが…」
神の実とは少し違うな、と先程渡したばかりの真っ赤な果物をカルバンに返された。
「そっかあ…。ちょっと自信あったのに」
えへ、と笑いながら言って、そのままそれをかじってみた。
「あ、美味しい」
アカリが顔を綻ばせていると、急に彼の顔つきが変わった。
「カルバンさん…?」
「そうか、そういうことか」
彼は突然アカリの手首を掴んだ。
真っ赤な実が手からこぼれ落ちる。
「アダムとイブは『食べてはいけない』と言われた林檎を食べてしまった。
白雪姫は、『どんな願い事でも叶う』と言われて毒林檎を食べてしまった。
…神の実は、この"禁断の実"なんじゃないか?」
「え、と…」
返答に困っていると、彼が妖しく笑うのが目に入った。
「君も、この"禁断の実"を食べたよね」
そんなのみんな食べてる、という抗議の声は、世界が逆転したことによって掻き消された。
「俺の神の実を食べちゃうなんてね。まったく」
「ちょっ、カルバンさ、」
横暴だと思ったが、彼に抵抗しない自分がいる。
長いキスから解放された時にふと横を向くと、一口だけ齧られた林檎が目の端に入った。
相変わらず艶やかなその実は、甘い誘惑そのものだった。
毒林檎の味
(それは危険な恋の味)
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