少女は狼を疑わない
男はみんな狼みたいなものだって、きっとわかっていないのだろう。
壁についた僕の手と手の中に収まっているヒカリを見て、つくづく呆れた。
なんでこんなことになったのか、回想してみる。
それは何でもない日常からで。
いつものようにやってきた彼女は、いつものように僕の家に上がり込んで。
バスケットには輝かんばかりの卵がいくつか。
訊けば、「うちの子達が産んでくれたんですよ」と御機嫌な回答が得られた。
ちょうどランクの高い卵を探していたところだったから、素直にお礼を言った。
…それが間違いの始まりだったのかもしれない。
ぱっと顔を輝かせて―そう、この卵よりも―彼女は言った。
「チハヤさんが喜んでくれた!」
嬉しい、と微笑む彼女に、心臓がどきりと音をたてる。
無防備なその表情(かお)に噛み付いてやろうか、と思考が歪む。
そんな黒い僕に気付かないヒカリは、なんて鈍感なんだろう。
君ってさ、よく鈍いとか言われない?と尋ねてみると、きょとんとした瞳(め)で見つめられた。
「じゃあ、わからせてあげようか」
男はみんな狼みたいなものだなんて、男の僕が思うのも変な話だけど。
目の前の少女はきっと、これがどういう意味(こと)かわかっていないのだ。
心の奥で溜め息をつくと耳元で囁いてあげた。
少女は狼を疑わない
(次こんなことしたら、食べるよ?)
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