糸車の針の先




「魔法使いさんって、あれですよね、…えっと……糸車の針!」

突然突拍子もないことを言い出すのはアカリの癖だったが、今回ばかりはまったく意味がわからない。

隣に座っている彼女の方を向いて、3度程まばたきをしてから首を傾げた。

「…なんで」

「えー…内緒。」

人差し指を口の前に立ててくすくす笑う彼女は楽しそうだった。

「……ふーん」

興味なさそうなふりをして、読んでいた本に再び目を落とす。

ちらっと隣を盗み見ると、拗ねたような彼女がいた。

「なんだ…興味無いんだー」

「ある」

少し強めに言うと、アカリがびっくりしてこちらを向いた。

「ま、魔法使いさん?」

「君がさっき言ったこと、何でか教えて」

距離を詰めて顔を覗き込むと、アカリは顔を真っ赤にして「えと…」とうろたえた。

「その…触れると、魔法かかっちゃうから…」

「魔法?」

アカリはおろか、この町の人に魔法を使った記憶はない。

怪訝そうな顔をしたせいか、彼女は慌てて言った。

「あの、魔法使いさんが使うような魔法じゃなくてっ」

「…何?」

「……恋の魔法です」



糸車の針の先

(触れるとかかってしまう、"恋の魔法")



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