愛と知っていたのに、春はやってくるのに
「チハヤ、卒業したらこの町出ていくって本当なの?」
「そうだよ」
「どうして」
「料理の勉強…いや、腕試しかな」
師匠に磨いてもらった腕をね、と君は少し得意げに笑って言った。
ああ、いつかこんな時がくるだろうと思ってはいたのに。
春はもう目の前まできていた。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます。」
みんなの卒業パーティーを開こう、というコールの提案によってみんながアルモニカに集まっていた。
「チハヤ、明日出発なんだから。きちんと準備しなさいよ」
キャシーの強い言葉も、どこか寂しげだった。
「ほら、食べてよ、アカリ。僕の料理は暫く拝めないよ」
「…ありがと」
喉を絞って精一杯の明るい声を出すと、チハヤが持ってきてくれたブイヤベースを口に入れた。
トマトの甘さとハーブの香りが、絶妙な感覚を舌に残す。
チハヤ、いつの間にこんなに上手くなったんだろう。
ブイヤベースは、ちょっとだけしょっぱかった。
「それじゃあ、気を付けるんだよ。」
「はい。師匠、今までありがとうございました」
「おいおい、これでさよならじゃないんだから。…頑張ってこいよ」
ハーパーはそう言って、チハヤの背中をぽんぽんと叩いた。
「チハヤっ」
「アカリ。…またね」
行かないで、なんて言えたらどれだけ楽になれるだろう。
「頑張って、きてね。」
心がぎゅっと締めつけられた。
愛と知っていたのに、
春はやってくるのに
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