ある式神達の日常

京の都から少し離れた場所にある古い屋敷。
その中の一室で、一人の青年がある一点を見つめていた。

その視線の先には足首まであろうかという程の赤い髪を振り乱し、酒瓶を抱え込んで爆睡している少年の姿が。側には酒が入ったままの大きな杯が置いてある。
どうやら、酒を飲んでいる途中で爆睡してしまったようだ。
いい夢でも見ているのか実に幸せそうな顔をして鼾をかいている彼をジト目で睨みつけていた青年であったが、不意に近寄ると思いっきり蹴飛ばした。

「あだっ!」

悲鳴を上げながら飛び起きた少年。
酒瓶を抱え直しながら辺りを見回し、青年に気づくなり不機嫌そうに睨み付けた。

「てめぇ!何すんだよ!」

「昼間から酒飲んで寝てる貴様が悪いだろうが」

「いいんだよ、俺様はいいんだよ」

「…いくらその名の通りだからといって、主を放置して寝ているのは非常識だと思わんのか」

「…おい匂陣、鬼の俺にそれを言うか?」

そう言ってにやりと笑う少年に、匂陣と呼ばれた青年はまたもため息をつく。
複雑な表情を浮かべている匂陣をにやにやしながら見つめ、少年は再び口を開いた。

「てか匂陣、てめぇこそ一緒に行かなくてよかったのかよ」

「貴様と一緒に留守番をしていろと主に言われたのだから仕方あるまい。俺としては不本意極まりないが」
匂陣の言葉に少年も眉間に皺をよせ、ちっと舌打ちした。

ちなみにこの少年の名は酒呑童子。
鬼の盗賊とも呼ばれ、鬼の首領でもある彼が十二天将の一人である匂陣とこうして留守番をする羽目になっているのかは、色々と複雑な事情があるのだが…。

はぁと盛大にため息をつき、杯の酒を一気に飲み干すと酒呑童子は杯をひらひらと動かしながら言った。

「で、あいつはいつ帰ってくるんだよ。もう酒終わっちまったぜぇ」

「買い出しに行ってくると言っていたから、もうすぐ帰って来るのでは。…貴様、また酒を頼んだのか」

少しは我慢しろと言いたげな匂陣に、酒呑童子はむすっとした表情で

「仕方ねぇだろ!喧嘩はできねぇし酒しか楽しみがねぇんだよ!」

「なら違う楽しみを探せ」

「じゃあ女」

「却下だ却下」

「はぁ!?じゃあどうすりゃいいんだよ!」

「知るか」

ギャーギャー喚く酒呑童子から目を逸らし、匂陣は今日何度ついたかわからないため息をまた一つ。

もうこいつの相手は御免だ。早く主に帰ってきてもらい、この厄介者から解放されたいと願う彼の望みが叶うのはそれから二刻程経った後の事であった。

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