幸せのカタチ


「ただいまーって…何これ」

うちのソファーに幸せがいる。
傑が名前を抱きしめて横になっていて、二人ともふんわり微笑んでいる様に見える。
幸せってきっとこんな形なんだろうなぁ。
スマホのカメラを向けると傑がゆっくり瞼を持ち上げた。

「ん…さとる、帰ってたのか」
「僕は傑の事も好きだよ」
「……は?疲れているのかい?」
「二人が寝てるのみてたら愛おしいなって思ったんだよね」
「そういう事か。嫌いな奴と一緒に住める訳が無いだろう?私も悟の事好きだよ。いつも支えてくれて感謝しているよ」

イケメンかよ。悟帰ってきたよと優しく名前の頭を撫でながら微笑んだ傑に胸がきゅっとなった。
最近凄く心が穏やかで幸せ過ぎて心配になる。この幸せな空間がなくなったら僕はどうなってしまうんだろう。
きっと、いや、絶対。世界滅ぼす。
そうならないようにちゃんと守らないとね。

「ん、さとる…おかえりなさい、きゃっ!」
「ちょっと、重いよ」

寝起きでぽやぽやの名前が微笑んだところで愛しさが限界突破して僕も幸せの上に倒れ込んだ。
苦笑いしながらも僕を受け止めてくれた傑に僕に何かあったのかと心配してよしよしと頭を撫でてくれる名前に口元が緩みっぱなしだ。

「悟、お疲れさま。おかえりなさい」
「うん…ただいま」
「悟が帰って来るの待ってたんだ。名前がご飯作ってくれたから食べよう」
「まじ?めちゃくちゃ嬉しい!!」

うちのダイニングテーブルに手料理が並ぶ日が来るとは思っても見なかったよ。
調理器具も名前の家から持ち込まれていつの間にかキッチンも充実していた。
こうやって自分の物では無い生活感が増えて行くのは何だか嬉しい。以前の僕なら絶対にあり得ないし何なら家に女をあげるなんて考えられなかった。
お味噌におひたし、煮物、和風ハンバーグなど出汁のいい香りがダイニングに広がる。

「はぁーお味噌汁が染み渡る」
「名前美味しいよ」
「口に合ってよかった。好みが分からなかったから和食にしたけど、嫌いな物あったら教えてね」

おひたしも優しい味でもう割烹名前。
どんな高級店よりも美味しいと感じるのは名前が僕達の為に作ってくれたからだろうか。

「名前はいつもサラダだけなのかい?」
「たまにね。痩せたい時は夜軽めにしてるの」
「えー充分細いじゃん。痩せなくていいよ」
「そうだよ。今でも折れそうで心配なくらいなんだから、ちゃんと食べな?」
「んー、二人が綺麗な身体してるから、えっと、その…脱ぐの恥ずかしくって…」

かんわいいいーーーっ!!
そんな事気にしてたの?
しかも僕と傑の裸を綺麗だって?
だからいつも顔真っ赤にしてたの?今日も名前は可愛いの新記録を更新していく。

「あ、そうだ!ちゃんと話してなかったよね。私来月いっぱいで夜あがる事にしたんだ」
「…理由聞いてもいいかい?」
「本当に二人の所為とかじゃないの。元々、お店を持ちたいとかママになりたいとかそういうのは考えてなくて、副業も安定して来たから辞めるなら今かなって」
「本当にそれだけ?」
「うーん、二人の事支えたいなって言ったら重たい、かな?あ、二人の所為って事じゃないよ!!夜辞めたらちょっとゆっくりしたいなって思ってたから、こうやってご飯とかたまに食べてくれたら嬉しいんだけど…」

それは最早お嫁さんでは?もうプロポーズしちゃう?
嘘ついている様に見えないし、僕達と付き合ったから夜辞めなきゃって思ったなら考え直して欲しいと言うつもりだったけど、僕の考え過ぎだったらしい。
あんなに頑張って築き上げたものをサッと手放してしまえる潔さも名前のいいところだよね。これからは副業を本業にすると言った彼女はエステサロン経営、不動産投資、株式投資を数年前から始めていて生活には困らないくらい稼いでいた。流石僕の彼女だよね。やり手だ。
でもそれは一人で生きていく為に始めた事だったらしい。夜の仕事はその為の手段であっただけで何の未練もないし、やり切ったと言って彼女は笑った。

「私は親もいないし、もし何かあった時の為に一生困らないくらい稼いでおこうと思ったんだ」
「そう、か。話してくれてありがとう。私も話すよ。関係者以外には言ってはいけないんだけれどもう名前は家族同然だからね。聞いてくれるかい?」
「家族…ふふっ、何だか照れちゃうね。ありがとう、聞かせて欲しいな」

はにかんだ名前を見て安心した。
大丈夫。彼女なら受け入れてくれる。

「僕達の仕事なんだけどずっと秘密にしててごめんね。呪術師っていう仕事してるんだ。呪霊って呪いを、」
「呪術師…なんだ」
「え?」
「名前知っているのかい?」
「…死んだ両親が呪術師だったの」

え?そんな事があるのか?
両親とも呪術師?でも名字なんて聞いた事もない。
それに幼い頃に亡くなったと言っていた。ならなぜ高専が保護していないのだろうか。
自覚こそしていないが彼女は術式も呪力も持ち合わせているのになおさら解らない。

「…死なないで」
「え?」
「私を置いていかないで」
「名前…」
「だいじょーぶ!僕達、最強だからさ。僕らが死ぬなら世界なんて滅びてるよ」
「そうだよ。私達は最強なんだ。名前を置いていかないよ。名前こそ、私達を置いて行かないでくれよ?」
「…うん。私はどこにも行かないから、死なないで。"約束"だよ…」
「え?!」
「ちょっ、名前!!」

ぐらっと彼女の身体が傾いて椅子から床に倒れた。椅子を突き飛ばしながら名前に駆け寄ると呼吸はあるが顔が真っ青だった。
何があった??彼女の呪力が僕と傑を包んだと思った時には倒れていた。
呪力譲渡?いや、もっと深い何か…。
これは…何らかの縛りだ。三人に微かだが確かな繋がりを感じる。

「硝子!今どこ?今すぐ診て欲しいんだけど!うん、あぁ。ありがとう。ベッド空けておいてくれ」

傑の声でハッと思考に沈んでいた意識が戻る。そうだ、今はそれより名前が大事だ。
そっと彼女を抱き上げて傑と共に高専にトんだ。





  
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