噛み合って回り出す


「傑ー硝子ーさっさと終わらせて遊び行こうぜーまじで面倒くせー」
「私、救護だし。怪我人出すなよ」
「あー呪霊だけ祓えばいいんだろ?んなの傑が秒で終わらせるだろ。な?」
「…」
「傑?」
「…え?…何の話だったっけ?」

悟と硝子の会話は傑には一切入って来なかった。
今日は京都高専との交流会の日だった。
ずらりと並んだ京都の面々の中の一人に傑の目線は囚われている。
自身と同じ艶のある黒髪を弄りながら気怠げに黄金の瞳を伏せている一人の女からどうしてだか目が離せなかった。

「傑?どうしたんだよ」
「…悟、あの子知ってる?」
「あ?どれ?」
「いや…知らないならいい」

「ん?あぁ、名前じゃん。久しぶりー」
「あ、硝子いたんだ。久しぶり」
「いや、見れば分かるだろ。相変わらずだな」
「…だって面倒じゃん。そこの白髪君が秒で終わらせてくれるんでしょ?私早く帰りたいんだよね。よろしくー」

硝子にヒラヒラと手を振って京都高が集まっている方へ向かって行った。

「硝子、知り合い?」
「まあなー。…夏油アイツはやめとけよ」
「…まだ何も言ってないだろ」
「は?傑もしかして一目惚れってやつ?」
「…だからまだ何も言ってないだろ」

硝子と悟が顔を見合わせてゲラゲラ笑っているのを横目に溜め息を飲み込んだ。
この私が一目惚れだって?あんな高飛車そうな女に?有り得ないだろ。
でも何故かあの気怠げな瞳に自分を映して欲しいと思ってしまった。
経験はないがこれが何なのか、認めたくはないが、煩い心臓がそれが何かを告げていた。

「アレは五条と夏油足したくらいクズだよ」
「んなクズと知り合いなんだ?」
「まぁ、一応親友ってやつ」
「一応ってなんだよ。俺と傑みたいな関係にしてはドライじゃん」
「色々あるんだよ」

ふぅんと興味を失ったのか終わったら何処行く?と話しを変えた悟の話しをぼんやり聞きながら先程の彼女を思い浮かべていた。
どんな顔で笑うんだろうか。
身長高かったな。悟より色白なんじゃないか?彼氏はいるのかと考えかけてやめた。
もうこれはどう考えても恋だと認めざるを得ないだろう。

「硝子。連絡先教えてくれないかい?」
「あーまぁ、別にいいけど」
「けど?」
「…遊ばれないようになー」
「はあ?普通逆じゃね?傑を袖にする女とかいねぇよ」
「まぁ…クズ同士なんも生まれないだろ」

珍しく歯切れの悪い硝子に首を傾げながらも連絡先を送ってくれた事に口元が緩んだ。


交流会1日目は宣言通りに東京校の圧勝で終わった。
やり過ぎた悟が夜蛾先生にこってりと叱られて、そっちに時間が取られたので出掛けるのはやめた。結局、最寄りのコンビニに買い出しに行って私の部屋に集まる事にした

「夏油感謝しろよ」
「え…?」
「初めまして。名前だよーよろしくー」
「はあ?京都のヤツらはホテルに泊まってんだろ?」
「白髪君は馬鹿なのかな?それともホテルから出ちゃ駄目!っていうタイプなの?」
「おい、オマエ硝子の友達だか何だか知らねぇけど調子乗んなよ」
「は?硝子が友達?いやいや、そんな薄っぺらくねぇわ。顔が良いからって調乗んな」

「名前」
「あーごめん。つい。怒んないで」

硝子より頭ひとつ分背の高い名前は覆う様に硝子を抱き締めて頬をぐりぐりと頭に擦り寄せた。
口が悪い。悟並みの口の悪さに開いた口が塞がらないとはこの事かと呆然とした。

「あーえーっと、夏油傑だよ。よろしくね」
「あ、連絡先聞いてくれた人。傑ね。よろしく」
「…五条悟」
「へえ?君が五条なんだ。ふぅん。悟もよろしく。てかあんま喧嘩売らないでよ。私すぐ買っちゃうからさぁ」
「なんか、オマエ残念だな」
「あはは、顔だけはいいでしょ?」
「うん。残念だわ」

悟には言われたくなーいと笑う名前はそれはそれは可愛かった。
笑うと垂れる瞳に胸が高鳴る。
何なんだこれは。笑顔ひとつでこんなにも心が揺れ動くのか?恋とはなんと恐ろしい。
先程の口の悪さも気にならないくらいに可愛いく思うのだから恋は盲目とは良く言ったものだ。

「傑なに?私のこと好きなの?」
「…うん。そうかも」
「おい、傑!こんなヤツやめとけよ」
「私もオススメはしないな」
「悟は兎も角、硝子は酷くない?」
「まだ気になるってくらいだけど…」
「んー?付き合う?」
「は?」
「私バイなんだよね。硝子が一番好きなんだけどそれでもいいなら付き合おうよ」

ちょっと、待って内容が濃ゆすぎる。
色々あるって女の子が好きって事?
というか急展開すぎるだろ。
私は今日、初恋とやらを自覚したわけで、もう少しこう、何ていうか…余韻?そう、余韻に浸りたいし、恋が出来た事に酔いしれたい。…?いや、結論から言うと付き合いたいのだからこれでいいのでは?
硝子よりも私の事を好きになって貰えば何も問題はないんじゃないか?

「うん。それでいい。そのうち私がいないと生きて行けなくしてあげるよ」
「へぇ?硝子超えるって事?硝子どう思う?」
「私は知らん。勝手にすれば」
「おいおい、まじなの?傑熱でもあんの?」
「悟ってさぁ恋した事ないでしょ。何でもいいから手に入れたいもんなんだよ」
「それは名前の持論だろ。私には二度とすんなよ」
「まだ根に持ってんの?かわいいね」

うっとりと蕩けた瞳で硝子を見つめる名前。二人の過去に一体何があったんだ。気にはなるけどこれは知らない方が良いってヤツだろうな。

「傑の顔は好きだよ」
「……ん?」
「私綺麗な顔の人好きなの。傑もそうでしょ?顔は気に入ったから中身、教えてくれる?」
「名前。私の同期って事忘れるなよ」
「んー?硝子が男好きなのが悪くない?」
「いや、言い方。私の恋愛対象が男なだけだろ」
「あー…何か俺疲れたわ」
「五条奇遇だな。私も」

パタンと部屋のドアが閉まった時には既に名前と二人だった。
今日も硝子は冷たいなあと言いながらベッドに座った名前の表情を見て固まった。
酷く傷付いた様な、諦めたような顔を硝子は知っているのだろうか。
知っていて突き放しているのだろうか。
きっと付き合う気がないのなら冷たくあしらう、というのも硝子なりの優しさなんだろうけど。
私がいくら考えたって仕方ないのは分かっているのだけどこの顔を見ていると私まで胸が苦しくなる。

「硝子の代わりにはなれないけど、いつかきっと超えてみせるよ」
「…ハハ、そうしてくれると嬉しいな」

名前は力なく微笑んだ。

「…昼素っ気なかったのは何でなの?」
「硝子は人前でくっつくの嫌がるから。まぁ、それも私が変な目で見られないようにって硝子の優しさなんだけどね」

成る程。ずっと気になっていたんだ。
こんなに硝子の事が好きなら気付かない訳がないのに何でだろうって思っていた。
気怠げな、さも退屈そうな態度も硝子の為だったのか。
名前がいつから報われない恋をしているのかは知らないけど、今日恋を知った私でもそれは苦しいものだと分かる。
俯いたままの名前の隣にそっと座った。

「私は非術師が嫌いだよ。だから人がゴミの様に集まる所も苦手だし煩い女も嫌い」
「え?」
「好きなものは、そうだな…さっき硝子に向けた名前の柔らかい顔は好きだね」
「ふふ、私顔だけは良いもんなぁ。ありがとう。傑の事もっと知りたい」

そっと頬を撫でられてブワッと身体中を何かが駆け巡る。
それは酷く心地良い衝撃だった。

「え、なに、今の…」

パッと手を引っ込めた名前は目を見張って私を見つめている。
え?こっちの台詞なんだけど?
もしかして…同じ?


こうして私の恋は急発進した。



  
back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -