言わぬが花 @


"お店予約してるけど任務長引きそうなら気にせず連絡して"
"久しぶりに会えるのすごく楽しみ"



メッセージ受信の通知が二回なってスマホを見ると傑からだった。
久しぶり?
いやいや、四日前にも任務で会っただろうが。
はぁー。最悪だ。女の管理くらいちゃんとしろっての。誰と間違えてんだか。
返信は…しなくてもいいか。
お互い特級だし、忙しいのは分かっている。

傑は一個下の可愛い後輩だ。
可愛いは悟に比べるとって意味ね。一番可愛いのは勿論当たり前に硝子に決まっている。
最凶コンビは二人とも生意気で我儘でパーソナルスペースという概念を持ち合わせていなかった。それは卒業して少しだけ丸くなった今でも変わらない。
まぁどちらかと言えば傑の方が人の話しを聞く気があるから可愛かった、それだけ。
ただそれだけだったのに一ヶ月前にただの後輩とは言い切れない関係になってしまった。


『名前、おはよう』
『…おはよ』
『身体大丈夫?』
『えーっと。ちょっと五分黙ってて』

いいよ?とクスクス笑った傑を横目に私は考えた。何故呼び捨てで呼ばれたのかがまず気になったけども、お互いが何も身につけていなかった事で名前なんて些末な事は吹っ飛んだ。
昨日の行動を一から辿ると漸く脳が活動を始めた…あーヤってんなぁ。これは。

任務帰りに偶々、駅で会って。こんな偶然ある?ってなってご飯行って。偶々、任務用のスマホの充電が切れそうになって、近くの傑の家にお邪魔して。

『…泊まっていく?』
『え…いいの?』
『勿論いいに決まってるよ。でも…分かってるよね?』
『ん、いいよ』
『はぁ、名前先輩』

急に色気全開の傑に迫られて色んな意味で乗せられてしまった。
アレ断れる女いねぇだろ。私悪くない。
しっかもめちゃくちゃ上手かったんですよねぇ。中でイッたの初めてだったし、ほら傑って顔が良いじゃん?あんな顔でかわいい、最高とか何回も囁されたらね、こっちもテンション上がるって言うか?
そんなこんなで時間が合う日は会うようになっていた。
他の男じゃ物足りなくなってしまったんだから身体は欲に忠実ですよね。

「あれ?名前じゃん!高専いるの珍しいね?」
「先輩な」
「はいはーい。名前先輩何してんの?」
「補助監督てか、車待ち」
「あー任務長引いてるのか。てか免許取ればよかったじゃん」

免許ねぇ。確かに卒業する前に取ろうかと思って悩んだけどね。
これ以上ハイスペックになってどうすんだよって思い止まった。
誰も褒めてくれないから自分で褒めていくスタンスです。

「そんなん過労死するって分かってんだろー?てか暇なら悟が送れよ」
「はあ?!最強でイケメンの僕を足に使おうとしてるの?!無駄遣いにも程があるでしょ!」
「イケメン関係ないだろ」
「名前先輩は相変わらずだなぁ。あ、そうじゃん!傑に聞いたよ!」
「ん"んっ!…は?ちょっと、それはまじでごめん。てか口軽すぎん?」
「え?何で謝るの?」
「あーお前らからしたらそんなもんか。傑に程々にしとけって言っといてよ」
「そんな激しいわけ?おっえー」

ふざけ出した悟を置いてやっと来た迎えの車に乗り込んだ。
人の事は言えないけど二人ともクズだもんなぁ。セフレなんて他にもいるし大した事でもない。か。
あー、本当最悪だ。
この前抱かれた時に不覚にもきゅんとしてしまっていた。
いつもの笑顔も余裕もない、切ない表情で好き、なんて言われてときめいた。
思い出しただけでも子宮が疼くからたまったもんじゃない。
心と身体は別物だって思って欲に忠実に生きて来たけどどうやら繋がっているらしい。
味わった事のない快楽に包まれたからだ。
あんなの知りたくなかった。
知ってしまえばもっと欲しくなる。

「苗字さん、すみません…」
「ん?どした?」
「追加でこの後もう一件行けますか?」
「あー…うん、いいよ」
「っありがとうございます!!」

偶々で始まったんだ。偶々任務が入ったからそれで終わりくらいが丁度良い。
生意気で可愛い後輩もいつか心から満たされる人と出会えますようにと祈るように目を閉じた。




「すっぐるー!お疲れ!…え、なに?怪我でもした??」

名前に一週間ぶりに会えるのが嬉しくて楽しみで頑張ってたのに任務に負けた。
まぁ四日前に仕事で会ってはいるけど、あんなの会ったうちに入らないだろ。
あーもう、私、頑張れない。

「名前に会いたい…」
「きっしょ!あ、てかさっき高専いたよ?」

「……は?何で連絡してくれなかったんだい?私のここ数日の頑張り知ってるだろう?しかも名前が高専にいるのなんて珍しいのに、それなのに悟だけ会ったとか、何なの?恋でも芽生えるの?え、は?ちょっと顔貸せ、というか表でろよ。好きとか言わないよな?いくら悟でも、」

「ちょ!急にスイッチ入れるなよ!普通に引くわ!僕が名前に恋するとか有り得ない!」

悟の目は節穴なのか?あの可愛さが分からないとか六眼も大したもんじゃないね。
いや、分かって貰っても困るけど。

「名前何か言ってなかった?」
「ん?あー傑に程々にしとけよって言っといてって言われたかな」
「…は?何を?」
「何って、ナニっしょ?童貞かよ。どんだけヤッてんだよ」

はあ?セックス?そりゃするだろ。
何年私が好きだったと思ってるんだ。
しかも本当可愛いんだよ。すぐるって何度も呼びながら蕩けた顔なんて想像の何百倍も…あ、思い出したら勃ちそう。
まぁ、意識飛ぶまでしちゃったのはヤリ過ぎたかなって思うけど、ちゃんと名前が次の日早くないの確認してるし?名前だって滅茶苦茶求めてくれるんだからいいだろ。

「で?何で落ち込んでんの?」
「…今日任務入って会えないって」
「は?それだけ?そんなのこの仕事してたらしょうがないでしょ。それに名前だって一応特級なんだからさ」
「一応は余計だよ…しかもそれだけじゃない。暫く忙しいからまた連絡するって、リスケも無しだよ?死にそう…」
「あー、うん。それはまぁ…程々にしとけって事じゃない?」

え?本当にそういう事なの?
もしかして無理して私に付き合ってくれてたの?性欲ヤバい奴じゃんって思われてる?
あーもー最悪。浮かれ過ぎてたのか。
確かに、悟の言う通り童貞かよ。
いや、あーでも、会うだけでも良かったのに。それだけでも幸せなのに。

「店予約しちゃってるんでしょ?仕方ないから僕が付き合ってあげる」
「…硝子も呼んで」
「はいはい。傑の奢りなー」

硝子は悔しい事に名前の一番のお気に入りだから何か聞いてるかもしれない。
はぁ。会いたかった。悲しい。
名前は何とも思わなかったのだろうか。
同じ気持ちでいてくれたら嬉しいけどなぁ。
ま、同期だけで集まるのも久々だしなと気持ちを無理矢理切り替えて私も任務に向かった。





「名前先輩?特に何も聞いてないけど…は?夏油まだ好きなの?」
「え……何も聞いてないのかい?私たち付き合ってるんだけど」

「…は?おい、どんな勘違いだよ。冗談にも程があるだろ」

予約してた名前が好きな小料理屋に三人で来ていた。
早速硝子に名前から私の事を聞いてないか質問するとまさかの答えが帰ってきた。

「ちょっと…本当に何も聞いてない?一ヶ月くらい前から付き合ってるよ」
「…まじで言ってんの?あーまぁ、名前先輩そういう話しする人じゃないか。次飲み行く時聞いてみるわー」
「…次っていつ?」
「明後日」
「あ…硝子、それ以上傑のメンタル削んないでやって」
「はあ??」

もう泣きそう。悟の言ってること本当じゃないか。硝子には会って、私に会いたくないなんて高専時代から何も変わってない。
硝子にドタキャンされた事を話した。

「ふ、ハハッ!日頃の行いだな!名前先輩本当最高だわ」
「…傑の顔見てよく笑えるよ」

ぐいっと日本酒を流し込んだ。
もう今日は飲むしかない。
悟と硝子が高専時代の話しをしているのをツマミに酒を煽る。
あー懐かしいな。
悟と喧嘩したり、怪我したり、悩んで苦しくてどうしようもなくなりそうな時に名前はふらっと隣に来て話しを聞いてくれるような人だった。それに私たちが何度救われて来たか先輩は知らないだろう?
きついなー頑張ってるなーって頭をわしゃわしゃと撫でてくれたあの笑顔がずっと好きなんだ。

「傑ー??」
「…なに」
「顔真っ赤じゃん。だいじょーぶ?」
「むり。名前にあいたい…」
「はぁ。面倒くさ。先輩呼んでやるからもう飲むなよ」



せんぱい。きてくれるの?
私が呼んでもきてくれないのに?
妬けるなぁ。
もう会えるならなんでもいいとぐわんと揺れる頭を抱えてテーブルに突っ伏した。




  
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