同じ願い事をしよう


※同じ流れ星ならいいのに。の続きです。





「傑ー!京都行こうぜ!」
「…名前かい?」
「え?呼び捨てになってんじゃん!進展あったの?」
「いや、たまにメールするくらいだよ」
「ふぅん」
「それで?京都はまた任務?」
「あ、ちょっと待って」

もしもーし。どうした?と優しい声で電話を取った悟。普通ならここで彼女かな?と思うところだが、これは絶対妹からの電話だ。
暫くは悟も上機嫌だろう。羨ましい。
あれから私と悟は特級に上がり、名前は一級だし忙しくて中々会えないでいる。
メールは一日一通程度だけれどずっと途切れずにやり取りはしている。
また知り合ってしまったのだから、やっぱり会いたいし、やっぱり忘れられない。
私には名前から電話を掛けてくれないのに悟には…いや、兄妹だから普通なんだろうけど嫉妬してしまう。

「傑ー!名前来るって!」
「え?」
「ナイスタイミングだよな。調伏終わったらしいから祝いしてやろーぜ!」
「あの時の刀?」
「そうそう!あれ使い手選ぶ生意気な刀なんだよね。ま、アイツにしては意外と時間掛かってたけど」
「へぇ。それはお祝いしなきゃね」

喜ぶべきことなのに人伝てに聞いた事がショックで悲しいと思うのは許して欲しい。

「いいねぇ!その嫉妬丸出しの顔!」
「うるさいよ」




「え!硝子!久々だね!」
「元気そうじゃん。調伏だっけ?おめでと」
「え、何?オマエらも知り合いなの?」
「あれ?言ってなかったか?私の親友だよ」
「親友…しょーこ大好き…」

悟の部屋で硝子の親友発言を噛み締めている名前は今日も可愛い。長い白髪をポニーテールにしていてサングラスから覗く蒼い瞳をキラキラと輝かせながら机の上を見ていた。
机には悟が用意したピザやケーキ、硝子と私が買って来たジュースにお酒が並んでいる。

「名前久しぶりだね。調伏お疲れ様」
「傑もありがとう!」
「とりあえず乾杯しようぜー!」

コーラを高く掲げた悟にカンパーイと缶チューハイを合わせた。
部屋でお祝いにしたのも硝子のアドバイスだった。名前も相当お酒が強いらしい。
確かにハイペースだなと四人で雑談しながら名前を眺めていた。見れば見るほど悟に似ている。意地悪く口角を上げて笑っている顔なんて本当そっくりだよ。
ふと視線を感じて硝子を見るとこっそり中指を立ててじとりと睨まれていた。
ククッ別にバレても構わないよ。隠すつもりもないしねと笑って見せると心底嫌そうな顔を向けられた。
中学の時名前は本当の友達はいないと言っていたから硝子と親友だって聞いて私は凄く嬉しい。
何だか頭がふわふわするな。彼女が楽しそうに笑っているからだろうか。

「そういえば名前さぁ、特級の推薦どうなってんの??」
「んー何人か推薦出してくれてるみたいなんだけど中々通らないみたい」
「なら婚約は?話進んでないよな?」
「…お父様が約束守ってくれているのなら進んでいないと思う」
「…え?婚約?」
「さすが五条だなー。相手どんな人?」

硝子が此方をにやにやと見ながら名前に聞いた。
心の中で溜め息を吐く。それは悟からも聞いた事がない。何で教えてくれなかったんだ。まさかこの歳で婚約しているとは思ってもみなかった。
…いや、五条だぞ?
ちょっと考えたら婚約者の一人や二人いてもおかしくないと気付くだろ。
あぁ次は頭が痛くなってきた。
私はやっぱり名前には釣り合わない。
でも、それでも諦めたくないと思ってしまうのは我儘だろうか?

「凄く歳上の方達ばかりだけど、お父様が選んだ十数名が一応候補者かな」
「あのクソ爺い達まじで許さない。名前に釣り合う訳ねぇだろ。殺す」
「このご時世にどこの貴族だよ?ウケる!」

硝子の言う通りだよ。
本当どこの貴族だ。クソだ。
名家なのは分かるけど名前の気持ちはどうでもいいのか?
御三家の女性は胎として優秀かで価値が決まると悟から聞いた事がある。
悟と双子で同じ瞳で子供が産めるなんて喉から手が出る程欲しい胎なんだろうが、私にとってはそんなのはどうでもいい。
名前の気持ちが一番大事だろう?
待てよ…まさかその中に好きな奴とかいないよね?

「…名前は結婚したいのかい?」
「傑?顔真っ赤だけど、大丈夫??」
「大丈夫だから。結婚したいの?」
「え?んーそうだなぁ。いずれはしたいけど今じゃないと思ってるよ?」
「私と結婚してくれないか」
「え?」「はあ?」
「ちょっ夏油、やば…ククッ」

あー何かとてつもない事を言ってしまった気がする。アルコールのドクドクと身体にまわって行く感覚が気持ち悪い。
そんなに呑んでないのにどうしたんだろう。
あぁ凄く、眠い。

「え、ちょっと!傑?!」
「ーーー大丈ーか?ーー。」
「ー!?ーー。」



ズキズキと痛む頭に目を薄ら開けると白い髪がぼんやり見えた。私の部屋に運んでくれたのか。それにしても関節も痛い。頭が回る様なこの感覚は風邪かと再び目を瞑った。朝から少し熱っぽい感じは確かにしていたけど、まさか倒れるとは思ってなかった。
名前は帰ってしまっただろうか。
まだ話したかったな。

「さとる。せっかくのお祝いなのにすまない」
「…熱あるなら言ってくれたら良かったのに」
「名前に会える機会なんて中々ないだろう?どうしても会いたかったんだ」
「…何で?」
「それは好きだからに決まってる。一応、私も特級術師だし、五条家認めてくれないかな?」
「……さっきの冗談じゃなかったんだ」
「冗談で言っていい事じゃないだろ」
「そっか…」
「悟、風邪うつすと悪いから部屋に戻りなよ。運んでくれてありがとうね」
「…おやすみなさい」

冷たいものが額に当てられ、それが凄く心地良くて意識が沈んで行く。
次はいつ会えるだろうか?

「傑、好きだよ」

私も好きだ。名前の夢を見ながら眠れるなんて風邪も引いてみるものだなと緩む口元をそのまま眠りに落ちた。


「…さとる?」
「あ、起きた?名前がお粥作ってくれてるけど食べ」
「食べる」
「即答かよ。アイツ一晩中看病してたんだから感謝しろよな」
「…は?悟がいてくれたのは知ってるけど、名前が?」
「はあ?俺運んだだけですぐ部屋戻ったけど?」

え、嘘だろう?まさかあれは名前だったのか?私好きだって確か言ったよね?

「…悟だと勘違いしてたよ」
「へぇ?名前俺の部屋で寝てるから後でお礼でも言ってやってよ。なら俺部屋戻るわ」
「分かった…起きたら教えてくれ」

髪の色だけで悟と間違うなんて、しかもなんて事を口走ってしまったのか。
起きあがりテーブルの上に置かれたお粥を食べるとまだ少し暖かいそれは優しい味で名前の笑顔を思い出す。
今日もう一度ちゃんと伝えようと腹を決めた。


昼過ぎコンコンと控えめなノックが聞こえた。
悟だろうか?

「開いてるよ」
「…傑、もう大丈夫??」

ひょこっと顔を覗かせた名前にガバッと身体を起こす。
悟わざと教えなかったな。

「大丈夫だよ。お粥もありがとう、美味しかったよ。…それと昨日悟だと勘違いしていたみたいでごめんね」
「え、あ、えーと…」
「とりあえず座って?」

恐る恐るベッドの横に小さく正座した彼女が可愛くて仕方ないと緩む口元を手で隠しながら私も横に座る。
俯いていた名前がパッと顔を上げてふぅっと短く息を吐いた。

「あのね、傑」
「私から先に話してもいいかな?」
「っど、どうぞ」
「昨日言った事は全部本気だよ。あの時は傷付けておいて勝手だって自覚はしてる。けどどうしても諦めきれないんだ。私は名前が好きだよ」
「わ、私もずっと傑が好き、です」

また俯いてしまった名前は耳まで真っ赤で、私の事を好きでいてくれた事が嬉しくて愛おしくてそっと彼女を抱き寄せた。

「…あ、の。傑聞いてくれる?」
「なんだい?」

自身の背中に手をゆっくり回してくれて、それが堪らなく嬉しくてサラサラの髪を撫でているとぎゅっとTシャツを握った名前は小さな声で呟いた。

「私ね、高専に入学するために色々約束してて、お父様が出した条件を守らなきゃいけなくて…」
「条件って?」

名前が出された条件とやらは簡単に言うと三つだった。

ひとつ、花嫁修行を怠らず京都高専で常に主席でいる事。
ふたつ、卒業までに特級術師に昇級する事。
みっつ、在学中の不純異性交遊の禁止。


中でもふたつ目は昇級できなければ婚約させられるという厳しいものだった。五条の花嫁修行なんて緩いものじゃないだろうし、それに加えて常にトップでいなければいけないのなんて、どれだけ時間があっても足りないだろう。
だからいつも忙しそうにしていたんだね。

ん?待てよ?五条家当主は娘を溺愛しているのは有名な話だ。
ならこの厳しすぎる条件はすべてみっつ目の為じゃないだろうか?
それだけ忙しい彼女は恋愛なんてする余裕もないだろうし、ただ娘に彼氏が出来るのが嫌なだけでは?それに昇級もただ強くなって命の危機にさらされる可能性を下げたいだけではなかろうか。

「だから、特級になるまで時間が欲しいの。勿論、その間に傑に好きな人が出来たらそしたら、」
「はぁ。私の想いを舐めないで欲しい。もう気持ちが迷う事はないよ。…あの時は自分に自信がなかったんだ。名前の隣にいるのが自分でいいのかってね」
「…でもあの時は五条って知らなかったよね?」
「五条とか関係ないよ。名前は優しくて可愛いくて、一緒にいるといつも他の男達が見惚れてたよ。それを見て私なんかが君の隣に並んでいいのかって名前を幸せに出来るんだろうかって自信が持てなかった」
「すぐる…私は一緒にいてくれるだけで幸せだったよ」
「情け無くてごめんね。でも私もそうだったんだ。それは今も変わらないよ」

名前と一緒にいられるだけで幸せだ。
けど、彼女の気持ちを知った今、もっと欲しくなるのは許してくれるかい?

「特級術師。なるべく早くなれるように頑張るから待っていてくれますか?」
「ふふっ、勿論だよ。でも無理はしないって約束してくれるかい?」
「うん!傑、ありがとう」
「昇級したらご両親に挨拶に言っていいかな?」
「え?なんて?」
「不純じゃなかったらいいんだろう?」
「それって…」
「本気だって言ったよね?名前私と結婚を前提にお付き合いしてください」
「す、ぐる、もちろん!嬉しいっ、」

Tシャツを握り締めたままグスグスと涙を流す名前の背中を撫でて幸せを噛み締めていると、部屋の扉が少し開いている事に気が付いた。
二人が覗き見している。
目が合うと悟と硝子は見た事もないくらいの満面の笑みで十点満点を掲げていた。
そんな小道具まで用意して、こうなるって分かっていたのかい?
ククッと思わず笑ってしまうと、気配を感じたのかパッと後ろを向いた名前。

「あ、やべ!」
「名前おめでとー!」
「え、悟と硝子?!ちょっと、何で!あ、まっ、逃げるな!」

バタバタと逃げる二人を追いかけて行ってしまった。
静かになった部屋でクスクスと笑っていると逃げ切ったのか悟が部屋に戻ってきた。

「はーまじで早ぇ。さすが俺の妹だよ。アイツ知っての通り不器用で真っ直ぐな奴だからさ…傑、名前の事よろしくな」
「認めてくれるのかい?」
「傑なら幸せにしてくれるって信じてるよ。でも次浮気したら、その時は覚悟しろよな」
「ククッ、そんな事二度とないから安心してよ、お義兄さん?」
「うっげぇー」
「あっ!悟みつけたっ!盗み聞きとかほんっと許さない!…領域展開、」
「ちょ!名前?!俺が悪かった!ここ傑の部屋だし?落ち着こうな?おい、傑も笑ってないで名前止めろよ!」
「ふふっ、名前は本当に照れ屋で可愛いね?そんなところも私は大好きだよ」
「あ、えと…ホントは私、大人しくて良い子じゃなくて…」
「どんな名前でも好きだよ」

そんなの中学生の時から気付いていたよ。
その頃から大人びた思考だったけど、負けず嫌いなだけで、意志が強くて頑固だって知ってるよ。
君は私が浮気しなくてもあの時別れるつもりだったんでしょ?家から私を守ってくれたんだよね。気付くのが遅くてごめんね。

家にも、本当は悟にも負けたくなくて一人で頑張ってきたんだろう?
でも私は名前がいつだって一番で大切だから、いつだってこれからもずっと君の味方でいるから。ずっと支えさせてくれ。




名前が昇級して五条家に挨拶に行くまであとーーー。







  
back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -