北極星に手を伸ばす


※嘘で塗り潰すの続きです。




高専で名前と七海が楽しそうに話しているのを見かけた。
あぁ。君の隣にいるのは僕の筈だったのに。
どんな言葉を並べたら君がもう一度僕に笑いかけてくれるんだろうか。


傑が居なくなってしまった日。
僕は手加減も出来ず君を酷く抱いてしまった。君は泣きながらも「私は何処にも行かないよ。五条先輩は私の帰る場所だよ。だから先輩は何処にも行かないで」って何度も言ってたよね。
でも僕は馬鹿だから信じれなかったんだ。
どうせお前は傑の所に行くんだろって俺が居なくなってたらどうしてた?俺に着いて来たのか?傑にこうやって抱かれてたんだろって。
今思えば本当に馬鹿で幼稚で愚かで仕方ないんだけどさ。

適当な女を適当に抱いて、やっぱりお前じゃなけりゃ眠れなかったし、虚しいだけだった。でもその確認をしなかったら不安で押し潰されそうだったんだよ。
君が僕を裏切らないって確信したかった。

そのうち名前も笑わなくなって、知らない男に笑い掛けてるのを見た時。あぁお前も俺を裏切るのかって。
全部、全部僕が悪いのに。
君は怒鳴りつけても何も言わなかった。
本当は僕が一番だって縋って泣いて欲しかった。
泣きもせず、何の感情も無く僕の事真っ直ぐに見ていたあの瞳はゾッとする程何も見えなかったんだ。あの時君は何を思ってたの?
もう一度俺を見て欲しい。
帰る場所は此処でしょ?


七海に頼みこんで、七海の代わりに小洒落た店の個室で君の事を待っている。
柄にも無く15分前に席に着いた。緊張で喉が渇いて仕方ないけど、名前に会えると思ったらどんな形でも嬉しくて。
あの時君が僕に言いたかった事を聞かせてくれないかな?
罵倒でも軽蔑でもなんでもいいからもう一度僕を見て欲しい。


「七海待たせてごめ…!え……五条…先輩…」
「名前。」
「わ、わた、し帰ります!」

僕は彼女の細い手首を掴んだ。
冷たくて白くて、変わらないそれに少し安心した。

「七海に頼み込んだんだ。ごめんね。少しでいいから話しを聞いて欲しい」
「……」

僕の手を振り払ってそっと席に座った。

「ありがとう。」

俯いたまま。何も言わない彼女。

「本当にごめん。」

僕は今まで君にしてしまった事、あの時から今まで思ってきた事を全て話した。
名前はあの時と同じで何も言わずに僕をずっと見たまま。

「わ、私は。」

すっと息を吸って決心したように話す。

「諦めてしまったんです。五条先輩は私には救えない。どんな言葉も態度も貴方には何も届かなくて、今まで過ごして来た時間も私だけじゃなかった。灰原も傑先輩も居たからあった時間だった。私は五条先輩に、何も、なにもしてあげれなかった。私だけが幸せだった。ずっと同じ事を繰り返しても貴方の気持ちなんてこれっぽっちも分からなくて!私はどうしたら良かったのかって。でもきっと、結局は…自分自身が救われたかった…だけなんです」

涙を溢しながらでも僕から瞳を離さずに君は言った。

「僕は傑を殺したよ。」
「…知っています。」
「悲しかったし、苦しかったし、悔しかったし、正直ホッとした自分も許せなかった。けど。お前の、名前の俺に向けてくれていた瞳を思い出して救われたんだ。俺はあの時も今もずっとお前に救われてんだよ。気付くのが遅くてごめん。また側にいて欲しいなんて言わないから。お願いだから自分自身を傷付けるのだけはもうやめて欲しい」
「わ、たしは、もう、こんな自分は大切に出来ない!五条先輩が好きだった私はもういない!!」
「名前」

僕は席を立ちそっと彼女を抱きしめた。
名前の体温を久方ぶりに感じて手が震える。
ふわりと君の香りがした。ちゃんと僕が知ってる名前だ。純粋で無垢で清廉であの時と何も変わってなんかいない。

「俺の事何とでも言っていいから。もうお前が傷付くのは見てられないんだよ。」

「…傑先輩が居たら私何ていらなかったくせに」
「そんな事ない」
「私もあの時支えて欲しかった」
「馬鹿でごめんね」
「先に浮気したのはそっちのくせに」
「本当ごめん」
「もう…私はあの時の私じゃない」
「相変わらず意地っ張りだね」
「口調戻ってる」
「お前と話すとつい、ね」
「……逃げてごめんなさい」
「俺が逃げたんだよ。名前は何も悪くない」
「……」
「ねぇ、名前。本当に俺を好きなお前はいない?俺はずっと、今でも名前の事が大好きだよ」
「…五条先輩は狡い。」
「お前の幸せに少しでも、一ミリでも俺がいるなら、もう一度チャンスを下さい」
「…ほん、とに、ずるい」

名前は泣きながら僕の背中に手を回してくれた。

「…ずっと好き、だけど、ずっと嫌い。」
「うん。今はそれでもいいよ。名前が帰る場所になれるように頑張るから。僕を置いて行かないで」
「…五条先輩?泣いてるの?」
「…ちょっと、いま、かお見ないで」
「……ふふっ」

名前も泣いてるくせに。涙を袖で拭きながら彼女を見ると泣きながら微笑んでいた。
きっと僕も同じ顔をしている。


明日は二人で一緒に目を腫らしながら七海に会いに行こう。
もう二度名前を傷付けないって七海にも誓うから、早く僕の処に帰って来てよ。






  
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