溶け出した愛に永遠を誓う

紅茶を自分で淹れたくなって、しもべ妖精にティーポットやら茶葉やら(お気に入りがダージリンだということを彼らは知っていたらしい)を準備してもらって自室で一人紅茶を淹れていた
いつもはルシウスが淹れてくれるけれど、たまには自分で淹れてみたい、というかルシウスはあたしに紅茶を淹れさせてくれないから前からやって見たかったんだよね、
そりゃあ、あたしは紅茶を淹れたことはないよ、でもさ、あたしも淹れたいな…って呟いたときのあの見下すような視線はどうかと思うよ!!
ちょっと自分が紅茶淹れるの上手いからって、そういうのは良くないと思いますです!!
卿も卿だよね!!
せっかくあたしが気を利かせてあたしの紅茶を一番に飲ませてあげようと誘ったのにさ、『そんなもの飲んだら寝込んでしまうだろう』って!!
いくらあたしの淹れた紅茶が美味しそうだからって飲む前から美味しすぎて寝込んじゃう心配しなくてもいいじゃん!!

「あれ…?いざ淹れようと思っても、あたし詳しい淹れかた分かんないや」

と、とりあえずルシウスがやってたみたいにやればいいよね!!
ルシウスの作業を思い出しながら、馴れない手つきで(初めて何だから当たり前だよね、うん)やってみる

「こう、かな…?んむむ…こうだ!!」
「おい、止めろ、それ以上やったらポットが壊れる」
「んあ!?きょ、卿!!何してるんですか、覗きですか、変態!!」
「誰が変態だ!!お前が茶を淹れたことがないなど私は知っていたからな、心配になって来てやったんだ」
「気配を消して来ないでくださいよ、それにそんなこと言って、本当はあたしの淹れた紅茶が飲みたかったんでしょう!?もう、素直じゃないんだから、」
「どこぞの年増の女のような口調は止めろ、それにこれは本心だ、現にそのポットは壊れる危機にさらされている」
「え、………っあ!!」

卿があたしの手元を指さしたから視線を落としてみると、お湯をいれたばかりのポットはあたしの手元でゆらゆらと揺れ、今にも床に落下しそうだった
ポットの中のお湯は何だか怪しい色でだらだらと零れ出していた

「全く、どうしてお前はいつもこうなんだ、何故できもしないことをやろうとする」
「人生やってみなきゃわかんないですよ、それに人には得手不得手があって当然!!何でもこなしちゃう卿とは違うんです、今あたし結構良いこと言った!!」
「紅茶くらい誰だって淹れられるがな」
「しゃらーーっぷ!!あたしは初めて何だからできなくて当たり前なんでっす!!」
「無い胸をはるな見苦しい」
「そこに触れてはいけません」
「何だ、認めるのかつまらん」
「楽しんでますね!?ひどい!いたいけな少女、名前ちゃんをそんな風に扱うなんて!!」
「どこがいたいけだ、紅茶くらい淹れられるようになってから言え」
「それならお手本見せてくださいよ、」

卿は、やれやれ、と嘲ってあたしが失敗した跡を杖をひとふりして綺麗に元通りにすると、てきぱきと紅茶を淹れ始めた
改めて見ると、卿は本当に綺麗な指をしている
白くて長細い、少し爪の伸びた、女性のようなしなやかな指
あの手が悪人のものだなんて誰も思わないだろう
でもそんな手が彼に不釣り合いなようでどことなく似合っている
前々から思ってたけど、やっぱりこのひとは不思議なひとだ

「何を考えている」
「っ!………いや、何も」
「そうか、………出来たぞ、ちゃんと見ていたんだろうな?」
「……もっ……ちろんですよ!!」
「その間は何だ、」
「気にしたら負けですよ、あ!お菓子無いんですか!?お菓子!あとお砂糖、ストレートってちょっと苦いし」
「太るぞ」
「別腹ですから大丈夫です!!」
「今日だけだぞ、」
「わぁい!ありがとうございまーす!!」

卿がだしてくれたお菓子を頬張りながら、紅茶に砂糖を溶かして飲む

「美味しい、です」
「当たり前だろう」
「飲まないんですか?」
「飲むぞ?」
「じゃあ何でカップを用意しないんですか?」
「淹れてやった分の礼をもらって無いからな、お前が飲ませろ、名前」
「なっ!?ちょっ、んむっ……」

口の中に紅茶なんて入ってないのに、
あの綺麗な指に顎を絡め取られて強引に口付けられ、まるでそこにはない紅茶を味わうかのように口内を荒らされる
音を立てて離された彼の唇
それを彼は唇に残った甘味を残してしまわないように、とでも言いたげに舐めとった
苦しさで声を出せずにいると、卿は満足気に口角を吊り上げた

「甘い、な」

今度はストレートで試すか、なんて言い出す彼、
またこんな風になるのか、と嬉しいのやら嫌なのやら、よく分からなくなった

「また淹れてやろう、次は何を見返りに貰おうか」

でも、これが彼の愛情表現ならいいかもしれない

溶け出した愛に永遠を誓う
(ほろ苦い紅茶に溶け出した砂糖のように甘く)


title…空想アリア

[ Prev ] [ Next ]

[ Back ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -