期待外れの命と言われた。出来損ないと嘲笑われた。ようやっと出会った希望には唾吐くように突き放された。
そういうとき空を見上げると、今日みたく馬鹿みたく星が光っているわけで、いつかおれもあの中の1つになるんだろうかと携帯電話を取り出した。






[ 明日を待つ ]







銀時から呼び出されたのは午後6時。それからなんでか電車を乗り継ぎひたすら南下。そして銀時に促されるまま観覧車へ。
標高が低いといえど、山の上なので見晴らしはいいのだろう。その証拠に銀時は窓に張り付いている。
高杉といえば、出来る限り下を見たくない。全面透明のゴンドラは存外脅威の塊だった。


「明日が来るのが怖いんだ、相も変わらず」
「そりゃあ、てめえの常套句だろーが」


情緒不安定な銀時は大体明日が怖いと嘆く。そのたび桂が諭し、坂本が慰め、高杉が馬鹿言うなと突き放した。
そうすると、わかってくれるのはおまえだけだと、銀時は気紛れに笑うのだ。


「おれはね、人生を悲観しているわけじゃねーけど、いろいろ言われてきたからさ、おまえと会うまで。やっぱり周りは敵に見えちまうんだよな」


こちらを振り向くことのない銀髪のふちに空の闇色が滲んで黒ずんで見える。その向こうでは星がチラチラ光る。微かな町明かりなんかも。
そういえば、こんな時間に勢いでこんな場所まで来て、どうやって帰るんだろうか。


「でも、そのわりにいろんなこと、やりたいなって思ったんだ。見返すじゃねえけど、きっときっとって」
「ふうん、たとえば」


高杉が促すと、初めてこちらを向き、ゆるく首を傾けた。
遠くで飛行機が飛んでいく。今、1番高いところにいるのかと、そのときようやく気が付いた。


「飛んでみたい、空を」
「ほう、」
「笑ってたい」
「笑ってんだろ。次は」
「誰かをちゃんと愛してみたい」
「おれにしとけよ」
「馬鹿言うな」


そう言って目を眇める。ほら、笑ってんじゃねーか。言い返す前に、まだ続きがあるよと、銀時は口の端を持ち上げた。
どうせ夜のゴンドラで2人きり、することもないから大人しく話を聞く体勢をとる。


「変わりたい」
「なにに?」
「消えちまいたいとも思ったよ」
「それこそ馬鹿言ってんじゃねーよ」
「うん。それでいて生きていたいと思うんだ」


とびきりのゆるい笑顔ではっきりと言い切った銀時は、それはおまえのせいだよと付け足した。
意味がわからずにいる高杉なんぞ露知らず観覧車は着々と地面に向かっていく。


「だからおまえに電話した」
「はあ?」
「いちにさんで、おまえに会えたらなあって思ったんだ」


笑顔は変わらない。見たことないくらいの微笑みで銀時は言葉を続けていく。


「高杉のせいだよ。おまえがおれに音をくれたから、おれは明日を諦められないんだ」


期待されなかろうと、出来損ないであろうと、きっときっとって何度も歌い続けていくんだよ。そう銀時が言い切ったころには地上に辿り着いていた。
高杉は銀時の告白じみた言葉に、一瞬いる場所を忘れた(危うくもう1周するところだった)
先に降り、高杉の手を引いた銀時は変わらずに笑っている。







帰りのバスは案の定、なかった。冬じゃなくてよかったね、と気休め程度に言ってみたものの、高杉の不機嫌が去ることもなかった。
銀時は、自分の隣で不貞寝をする高杉の上着から喫煙セットを拝借した。


「げ、1本しかねーじゃん……」


まあいいかと、火をつけ煙を吐き出す。申し訳程度についた電灯に紫煙が照らされているのをぼんやり眺めた。
バス停で確認したところ、バスの時間は明日の6時ぴったりだった。明日も学校はあるから桂にどやされるだろう。ちなみに現時刻は深夜2時だ。なにかよくわからない鳴き声なんかがたまに聞こえてくる。
24時間営業のコンビニが近くにあったのだけが不幸中の幸いだった。まあ、近くといえど多分1km以上先だけど。


「なあ、高杉ー、コンビニ行こうぜ」
「勝手に行けよ」
「だって煙草、なくなっちまったよ」


殴られた。もちろん軽くではあったけど。だが、仕方なさげに立ち上がってくれたのでよしとしよう。
なあ、と呼び掛け、袖を引くとじろりと睨まれた。そのくせ手を差し出してくるのだから素直じゃない。


「おでん食おう」
「はいはい」
「言ったの全部、嘘じゃないぜ」


べちんと手をひっぱたかれた。へたっぴな照れ隠し。ふふふと笑って、こちらも手は離してやらない。

コンビニに行って、おでんを買って、それから2人で朝日を見よう。そうして、また、希望を吐き出すようにうたを歌うのだ。




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bgm:ハイライト観覧車/cherry nade 169