ss | ナノ


 叶多は昔からゲームがへったくそで、いつも俺がFFとかドラクエとかマリカとかやってる横で画面を眺めるのが、叶多の役目だった。モルボル出てきたら泣き出すし、格ゲーは三秒でKOされるし、本当にろくでもないほど、弱い。
 俺は昼休みに暇だと、すぐさまPSP取り出して零式とかやるけど、叶多はあんまりいい顔をしない。「ゲーム苦手な俺の前でゲームするの?」とか言われたこともある。かまってちゃんするのも下手くそだった。

「秋雨破産だよ?」
「えっ、えっ、……やだ!」
「無茶言わないでよ。はやくサイコロまわして」

 半泣きでPS2のコントローラーを握りしめている叶多と、余裕綽々顔でじゃがりこぼりぼり食っている三橋が、眼前でだらだらゲームしている。俺は三橋のあとに順番が来るから、内心ずっと叶多に合掌している。
 土曜日昼下がり、自宅、俺の自室。三人。祈幸は自宅の手伝いでいない。三橋こわい。叶多ドンマイ。
 一見絵に描いたような優等生の三橋葵が、いただきストリートでここまで牙を剥くとは思わなかった。たまたま自宅にあった、あっただけで俺はほぼやってない、FFとドラクエのキャラが出てくるいただきストリート、なんだけど。キャラもステージも可愛いのに、プレイヤーが約一名えげつない。

「あー、よかったじゃない秋雨、ぎんこう城だよ。賞金賞金」
「……もうやめたい」
「やめちゃうの?」

 にっこり。
 叶多が息を飲んで、首を横に振る。三橋は満足そうにカルピスを飲む。悪女だ。
 いただきストリートなんてキャラとステージが可愛いだけで、株と破産と下落みたいなひどい言葉が並ぶゲームにおいて、三橋は強い。あからさまに知略系のゲームだし、三橋に頭使うゲームさせてろくな目にあったことない。大富豪も酷かった。叶多は大富豪も強くない。
 三橋は鼻唄混じりにじゃがりこぼりぼりさせながら、コントローラーを握ってサイコロを振る。自分の店に投資はせずに、あえてカジノマスに止まった。性格悪いゲームスタイルだなマジで。実際賢いゲームスタイルではあるだけど。叶多死にそうだしさ、顔。

「……叶多、あんまさ、死ぬなよ。なんなら俺も罰ゲーム一緒に受けるし」
「水屑は負けてないから駄目。巻き添えにはしない」
「あ、そう。でも辛そうだし」ゲームだけどこれ。

 負けたら罰ゲーム。内容なんだったっけ、ホモごっこ? 変顔大会? 黒歴史暴露?「なあ三橋、罰ゲームなんだったっけ」「月曜日、一日桔梗くんのように豆腐を持ち続ける」あ、それはいやだな。マジでいやだな。
「三橋は負けたらそれすんの?」
「するよ。もちろん勝つけど」
「あ、うん」お前が勝つだろうよどう見ても。さっきから三戦三勝だし。

 叶多が半泣きの顔で唸りながら膝を抱える。敗北の可能性が濃厚な叶多のことを、俺はさすがにどうもしてやれないし、情けかけてやるのも後味悪いし、コントローラーを握っていろいろ考えあぐねる。叶多の店に止まるかぎんこう城いくかどうす、『ヂャリン』

「あっ」
「いらっしゃいませ水屑くん」

 なんで三橋の店に止まったんだろ俺一気に破産間近なんだけど嘘だろ葵さん情け無さすぎだろ悪魔か閻魔か葵様かどれだよ。叶多助けて。えっ、ちょい待って叶多助けて。



いただきストリート(wiki)
『葵と叶多と水屑でゲーム』
/dear Lin様
/from 彼住遠子(慰涙)
/20131110



Copyright © 2009-2018 Tohko KASUMI All Rights Reserved.

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -