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 童話のお姫様が本当になにひとつ欠けないまま幸福に、なれなかったら。


Snow White/Aoi
おかあさんはわたしのことが嫌いだったけど、わたしは自分が不幸だって思わないわ

 ほんとうは死んでしまったほうがおかあさんのためだ。猟師がわたしの顔を困ったように見下ろして、どうしようかと呟いていた。わたしだって子供じゃないから、猟師に連れられて森に放された意味くらいわかる。わたしの部屋も名前もあのお城にはなくなっちゃった。
「わたしのことは放っておいてだいじょうぶ」
 両腕がないんだもの、きっとすぐ獣の餌になっちゃう。冗談みたいに言ったけど冗談らしく聞こえなかったようで、猟師は唇をきつく結んだ。居場所がないところに帰ろうとするほうが、よほどこころを砕かないといけないから。これでいいの。わたし気ままにやるわ。
 すぐに死んでしまうならそれまで。運よく生きれるかもしれないし。もしか世界一しあわせになってしまうかも。そんなのはまだ誰にもわからないほうがいい。

「ありがとう猟師さん、お元気でね」
 頭のてっぺんまでしかない腕をぶんぶん振ると、彼は力なく頭をさげて去っていった。
 さて、とわたしは森を見渡す。
 ……おなかがすいちゃった。

「木の実、とってもらってから帰せばよかったな」




The Little Mermaid/Nagaku
歩けないことは変わらないから。人の形を得れてよかった

 歌うことは好きだった。
 だけど、歌うことしか出来なかった。誰のためでもなく歌っているばかりだった。海の底はとても生きやすくて楽しいけど、みんなが誰かと言葉や愛を交わしている横で、わたしは何にも関係がない存在だった。
 人魚のうたは人間の命をうばう。
 だから人間の前では歌えない。あのひとの前では歌えない。歌えないなら声は要らなかった、それが代償になるならむしろよかった。
 鰭があっても歩けないのは変わらないし、あのひとと同じものの形をしていられるならなんでもよかった。脚があるからあのひとはわたしのことを可愛そうな人間だと思ってくれる。海にはなかったやけどという傷がどうにも痛いけど、こんなの全然平気。

(ほんとうはあなたのために歌ってみたかったけど、)

 でもいいの。
 いまこのひとといれれば、明日泡になったっていい。



「永句or葵で欠損、怪我の絵」
dear 末摘花さん
from 彼住遠子

20170204




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