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「冬の夕焼けって、紅いよな」
「……あぁ、うん、そうだね」
「……つまらん話で悪かった」
「うん」

 眠そうにでかい欠伸をしながら、三橋はコートのポケットに行儀悪く両手をつっこんでいる。マフラーを巻いてたりはしない。ので、見た目が寒そうだ。
 いつも通りのセーラー服にライトグレーのカーディガンを重ねて、いつも通りに黒いニーハイで、昨日とも一昨日とも変わらない。目付きの悪さも、結構低い落ち着いた声も。不機嫌そうな面も。夕焼けの紅さが昨日と変わらないように、三橋は変わらない。

「……クリスマス、三人で水族館行ったんだよ」
「へー、ホモだね」
「違うけどな? 叶多が好みの幼女を見つけて大変だった」
「それいつもじゃない」
「好みの幼女を連れているだめそうな青年に憤慨して、大変だったんだよ」
「おつかれさま」
「お前が好きそうな感じの男だったよ。あーだめ男ーって感じ」
「出逢ってないから知らないよ」

 三橋は朗らかに笑うこともなく、淡々としていた。いつもより微妙に不機嫌そうで、どうせまた腹でも空かしてんだろう。もしくは体調悪いとか。何にしてもご飯食べたらおさまる不機嫌だろう。
 トン、トン。
 彼女のローファーが規則的に音を立てる。だるそうでやけに重たげな音。脚を引きずってもいないのに、三橋の歩き方は危うく見える。誤って転んでそのまま海に落ちてしまいそうな、人生に不注意みたいなそういう。

 横で自転車を押している俺の靴音も響いて、それらはずれたリズムで道に響く。学校から叶多の家までのあまりにも短い道のりなのに、胃が痛くなるほど気が重い。三橋の不機嫌はおさまっていない。

「……どした」

 虚ろなのか空気を睨んでいるのかぼーっとしているのか、つり上がった割に悲しそうにも見える瞳に、ぽつりと声が出た。
 三橋は横目で俺を見て、なんともなさげにまた、前を見た。反応の薄さと冷たさで人生損しているに違いないくらい、三橋は可愛くない。もとから美人でもないのだからすまし顔も仏頂面もやめたらいいのに、……あっこれブーメランだやめよう。

「どうもしない。おなかはすいた」
「やっぱハラヘリかよ」
「やっぱってなに。……いやな夢はみたよ」
「いつ?」
「放課後。部室で寝てた」
「今さっきじゃんかよ」
「八つ橋が起こしてくれた、……というか、八つ橋が部室のドア開けた音で起きた」間接的過ぎる。

 眩しいのか、三橋が目を細めて紅い夕焼けを眺める。一瞬、泣くのを堪えているような表情にも見えた。
 ふ、と笑う。口角から。瞳から。

「三橋?」
「わたしだって、たまーには、しぬほどかなしくなったりするんだよ」
「……うん」
「でもおなかすいたな。いいや水屑くんチョコとか持ってる?」
「は? ねーよ」
「ないのか……」
「いま今日一番の切ない顔してるけど絶対ミスだろそれ」

 前半30秒のシリアスフラグが最初から無かったみたいにおなかすいたなあとか言うな。暗くなるなら最後まで暗くなれよ。落ち込めよ。嫌な夢みたんだろ。

「冬の夕焼け、紅いっていうか」
「なんすか葵さん」
「ピザまんみたいだよね」
「お前歪みないよな」いっそ歪め。

「……向日葵、咲いてないかな」

「コスモスはもう少し先なんだ」

 三橋の視線は夕焼けでも俺でもアスファルトでも、すぐそこの叶多宅でも、なかった。夢の中のどなた様はそんな花の匂いってやつがしたんだろうか。特になにも聞かないで自転車を押していたけど、その後三橋はおなかすいたしか言わなくなったから、正解だったんだろう。



『水屑と葵、BGMにbitter(keeno)』
/dear 白波様
/from 彼住遠子(慰涙)
/20140129




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