メロンチップス


『お疲れ様。
引きこもっている生徒の詳細を送る。
名前は鹿嶋 涼。朝と同じ高等部2年で、クラスはB。1週間前から引きこもっているらしい。詳しいことは同室者の方が詳しいだろうから、直接行って話を聞いてみてくれ。部屋は306号室。

あと、絶対に律と行動するように。何かあったらすぐ俺か泉に相談すること。以上だ、よろしく頼む。』


「へー、面倒くさそうな事案だね。ま、頑張れ」

小栗はスマホの画面に表示されたメール文を一読すると、自分には関係ないとでも言うようにスマホをすんなりと返してきた。

「えーなんだよそれ、小栗も風紀なんだから協力してもらうぞ」
「やだよ俺忙しいもん」

小栗が手元の机に置いてあるスマホを弄りながらそう言い返す。何かゲームをやっているようだ。画面の中の女の子達が小栗に向かって微笑んでいる。

「またゲーム?」
「そ。今イベントで忙しいんだわ」
「あっそ」

お前は友達よりゲームか。
俺は呆れて頬杖をつき、窓を眺めた。外は快晴。校庭を暖かな日差しが包み、楽しそうに遊んでいる生徒たちの声が聞こえてくる。
俺と小栗は人の少ない教室で、一つの机を間に挟み向き合いながら昼食後のおやつタイムを楽しんでいた。今日のおやつは俺が買ってきたメロンチップス。一見すると普通のポテトチップスなのだが、食べると微かに甘いメロンの味がする。食べる前は危険な予感がして小栗も食べるのを渋っていたが、食べてみるとこれが結構美味しかった。

「そもそもさ、こういうのって風紀がやる仕事なのかなあ」
ため息混じりで疑問を放つ。

「確かに。別に風紀乱れてないしね。風紀委員は生徒会に比べて暇だと思われてるんじゃない」
「…暇ではないよな」
「……」
小栗は何故かそこで黙った。

「あ、あと2枚だ。1枚ずつな」

気づけばメロンチップスが残すこと2枚まで減っていた。ついつい手が伸びてしまう。しょっぱいチップスに甘いパウダーのようなものがまぶしてあり、その甘じょっぱさが癖になる。果たしてそのパウダーが本当にメロンの味なのかは分からないが。

「これ意外と美味しいね、リンドウで買ったの?」
「そう」
「リンドウって品揃えが不思議だよね」
確かに、普通のコンビニやスーパーで取り扱ってない限定ものを置いていることが多いかもしれない。

最後の1枚を小栗が食べ終わって、俺は袋をゴミ袋に入れた。鞄から別のお菓子を取り出し、びりびりと箱を開ける。中から棒状のそれを取り出す。プレッチェルにメロン味のチョコレートがかかっている、俺が好きなお菓子トップ5に入る商品だ。

「小栗、口開けて」
眉を顰めてゲームに夢中になってる小栗の口にそれを持っていき、咥えさせる。
小栗は何も言わずにそれを咀嚼した。

「またメロン…」
「飽きた?」
「そろそろしょっぱいものが食べたい」
「確かに」
次はシンプルなスナック系を持ってこよう。

ゲームがひと段落したのか、小栗は分かりやすく身体の力を抜いた。スマホから目を離し、欠伸をしていた俺を見る。
満腹になったから眠い。

「で、碓氷くんに協力してもらうの?」
その台詞に、律の顔が頭に浮かぶ。

「うーん、取り敢えず今朝概要だけは伝えたんだけど果たして一緒について来てくれるのか…」

なんと今日は律が俺とほぼ同時刻に起床し、一緒に朝ご飯を食べることに成功したのだ。その時に簡単に今回の案件の内容を伝えたのだが、ずっと舟を漕ぎながら半目でトーストを齧っていた律がきちんと聞いてくれていたのかは不明だ。

「あんまり乗り気じゃなかったもんね」
「とりあえず今日放課後律のとこ行ってみる」
「おー、がんば」
お菓子をボリボリ齧りながら小栗は俺にささやかなエールを送った。

「碓氷くんが風紀入るのも時間の問題だと思うけど…」
小栗が何かを呟いたが聞き取れなかった。

「なんて?」
「なーんでもない」
教えてくれる気がなさそうなので追及を早々に切り上げる。

「あ、芦名くんどんな状況なのかな。なんか聞いた?」

24時間のうち8時間くらいは芦名くんのことを考えている異常な自分がいて気持ち悪さを感じている今日この頃。何も情報が入ってこないので無性にそわそわしていた。遠野くんと連絡先交換しとけば良かったかもしれない。

「さあ、何かあったら遠野くん?だっけ、が報告してくるでしょ」
小栗は至極興味なさそうに答える。

「ま、そうなんだけど」
「そんなに気になるなら見に行けば?」
「うーん、バレたら引かれそう」

と思いながら衝動的に明日あたり芦名くんのクラスまで足を運んでしまいそうだ。


内側から眠気の塊が膨張していくような感覚がして、欠伸で眠気を逃そうとする。目尻に涙が溜まって、今にも零れそう。

「はー、眠い」
「まだ本調子じゃないんだろ?寝てなよ」
小栗が鞄から文庫本を取り出した。本屋で買った時にしてもらうカバーがしてあって何の本か分からない。小栗の好きなライトノベルかな。

「うん」
次の授業が始まるまであと15分ある。
俺は机に突っ伏して重い瞼を閉じた。







「あ、律」

放課後、教室から出てきた律を廊下で引き止める。律は怠そうに鞄を片手に持って佇んでいる。相変わらず背が高くてモデルみたいにスタイルが良い。お陰で見つかりやすくて助かる。律は俺に気づいて、こちらを振り返った。

「これから例の引きこもってる子の部屋に行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」

そう言うと律は何の話か分からない、というように瞬きをした。

「なんで俺が」

その言葉に、俺は今朝の努力の意味がなかったことを悟る。

「だから朝言ったじゃん、委員長が絶対律と行動しろって…」
「行かね」

律は即答すると、クルッと後ろを向いて立ち去ってしまった。

「……」

──なんだよ、ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃん!
俺の中で律に対する怒りがふつふつと沸き起こり、その場でグッと手のひらを強く握った。

ちょっと協力的になったと思えば、すぐ素っ気なくなったり。律の行動はよく分からない。
…本当に俺が律のこと思い出さないと協力してくれないのか?

改めて考えてみると、その条件は中々シビアなものであることに気づく。一言に思い出すと言っても、その方法が分からないし、嫌な記憶も復活してしまう可能性が高い。…もう、この案件は俺1人で解決するしかないのかも。

──よし、引きこもりの生徒1人ぐらい俺が即引っ張り出して解決してやる。
俺は柄にもなくそう意気込むと、306号室を目指して歩き出した。



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