車の窓からずっと外を見ていた。変っていく景色よりもまだ夏を感じさせる空をぼんやり眺めてる。

「孝介。もう少しで着くけど、トイレとか行っておく?」
「オレは平気」
「そう」

家族一同で車に乗るなんて久しぶりだ。

夏休み最後の日、最後なのに部活があって、でもオレは休みをもらった。

「着いたぞ」

オレの記憶だと初めて来るなつの家。古い民家を改築した大きな家。

「皆さん…、今日はありがとう」

なつは母親似だ。目元や鼻が似てる。

「孝介君も大きくなったね」
「いや……。はい」

正直、家に入りたくなかった。入ったら認めなきゃいけなくなるから。

「顔、見てあげて」

一番見たくないなつの顔を見なきゃいけない。

────死顔なんて。



なつは元々体が弱く、高校に入ってからは入退院を繰り返していたから殆ど学校に行ってなかったらしい。

「こーちゃんに最後に会えてよかったって言ってたのよ。おかしいでしょ。つい一週間前まで入院してたのに……」
「……え」
「その日からずっと、笑顔でね………」
「…………」

もう何も言えなかった。だって、なつは……。

「…嘘、だよな……」

一緒に祭りに行って、花火を見て、手を繋いで…。ちゃんと温もりがあった。確かになつはそこにいた。今もまだ手を繋いだ感触を覚えているのに。

「なつ…なつっ……」

安らかに眠るその顔に触れれば冷たくて、それでも綺麗だなんて思ってしまう。


好きな気持ちに嘘はない。
君は初恋で、それは今も変わらない。


───好き、こーちゃん




あれは君が見せた夏の幻




夏影


君と過ごした最後の夏が終わろうとしていた…




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