同期で仲のいい一人が結婚が決まり、相手の同僚と、あたし達でお祝いパーティーという名の合コンをする事になった。
「今ね、すっごい幸せ」
女なら一度は憧れる。あたしも夢を見てた時期があった。今はそんな余裕ない。とか言いつつも、コンパには毎回参加している。
結婚が決まった彼女はいつに増して綺麗で、愛されてるのが分かる。正直、羨ましい。
まだ学生の頃に、当時付き合っていた彼氏に「新婚旅行はヨーロッパじゃないと嫌」とか言ってた自分が恥ずかしくなる。
そんなこんなで、コンパ当日。女性陣の気合いの入り方は尋常じゃない。
「あ、来た来た!紹介するね。彼が未来の旦那さん」
言葉が出なかった。現われた人物は、昔付き合っていた孝介だった。
「初めまして…」
向こうもあたしに気付いてわざと視線をずらす。久しぶりの再会がこんな席なんて。
「初めまして!」
知らないふりをした。そうする事でしか自分を保てなくなりそうだったから。
「楽しんでる?」
「え!はい。…えっと」
「あー酷い!名前覚えてないの?」
急に話し掛けられてびっくりした。ボーッとしてた。完全に意識は飛んでたみたい。
「オレ水谷ね。覚えて」
「水谷さん……」
「てか!田中さんつまんないでしょ?さっきっからグラス揺らしてるだけだもん」
「…よく見てますね」
「だってタイプだもん」
ストレートに言われて少しドキッとした。
「そんな…また……」
横目で孝介達を見る。楽しそうで、幸せそうで、あたしが知っている孝介じゃない。しかも会話は新婚旅行の話になってるみたいで。
「ヨーロッパとか行きたいよな」
「だよねぇ」
あたしの時は「金かかるし、遠過ぎ」って言ってたのに。
「…田中さん」
「え…」
水谷さんの手があたしの手に触れる。
「二人で抜け出しちゃおっか?」
耳元で、妖しく誘い出す。この人慣れてる。だけど。
「……いいよ」
孝介がいないなら、天国だって地獄だって構わない。
「ありがと」
この場から抜け出せるなら誰に何処に連れていかれようが、ここにいるよりかはずっとよかった。
蜜月旅行は天国で
本当はずっと、二人に嵌められた指輪を見ていた。あたしは安い指輪でさえももらえなかったのに。