名前を呼ぼうとしてもなかなか声にならない
遠くを歩くその背中が愛しくてしかたなかったのに今では憎くてしかたない
たかや、少しだけわたしの話を聞いて?

「人と人が出会う確率ってトイレに隕石が落ちるくらい凄い確率なんだって」
受話器越しのたかやにそう告げると話それだけかよって言われた
ちがうよ、付け加えて口を開く
薄くしか吸っていなかった空気が一気に肺に行き渡る
らしくない、緊張してるのかなわたし
「だからわたしとたかやが出会えたのって凄い凄い奇跡なんだよだからだからねわたし別れたくない」
ダムが崩壊したみたいに一気に何かが崩れ落ちて次々と言葉が漏れる
別れたくない、こんなにたかやのことだいすきなのに
いやだよたかや、明日も明後日も明明後日も来年も再来年も五年後も十年後もずっとずっとたかやと一緒が良い
「あのさあ」少しの沈黙の後たかやが気だるそうに口を開いた
「重たい」って言われる「しんどい」って言われる
きゅっと重く閉じた瞼からじわりじわり涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた

「確かに俺野球ばっかり優先してっし二年も付き合っててお前の誕生祝ったりも出来てねぇけどこんなこと言われて可愛いとか思うくらい俺はお前に惚れ込んでんだよあーもう電話じゃ埒あかねぇから今からお前んち行くんで泊まらせて貰って明日はどっか行くぞ」

え、と声を発する時間もなく通話終了の文字
ちょっと待ってわたし別れなくて良いの
移し出された時間は午後十時二十三分
彼が真っ赤な顔でお父さんとお母さんに挨拶するまで後二十八分








ごめんなさいやっぱりわたしあなたでいっぱいなの








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title 10mm
100810

しいこちゃんから
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