あたしの斜め前を歩く榛名の背中が好きだった。日を増すごとに大きくかっこよくなっていくのが自慢で、友達によく話していた。「好き」って言えば照れながらもちゃんと「オレも好きだ」って言ってくれる。手を握れば強く握り返してくれる。沢山出来たマメが硬くなった掌は少し苦手だったけど。カメラを向けると嫌がって逃げる所とか、風船ガムを上手く膨らませられない所とか可愛くて、キスの後に抱き締めてくれるのが幸せで。全て、これからもずっと見たり感じたり出来るんだと思ってた。


高校時代の荷物を整理してたら見つけた写真。そこには不器用に笑う榛名とあたし。

「懐かしい…」

もう今は思い出になってしまった榛名との三年間。終わりはあっけなかった。

プロになる榛名と、やりたい事が見つからず何となく大学進学を決めたあたし。気持ちのすれ違いは大きくなった。頑張ってる榛名を見てると、生きる世界が違いすぎると実感した。
今年で大学も卒業というのに、今だにやりたい事が見つからない。榛名の名前をテレビで耳にする度に苦しくなる。まだ榛名を好きな気持ちと劣等感。馬鹿みたいだと思う。榛名はきっとあたしの事なんてもうとっくに忘れてるのに。

だけど、何かを期待してアドレスと電話番号はずっと変えないでいた。いつか連絡が来るんじゃないかって。着信音も前に設定したのと同じ曲。


「ちょっと、まだ掃除終わってないの?」
「わっ!!」

母の苛立ち混じりの甲高い声。びっくりして持っていた写真を手放した、その時だった。

あたしの好きな有名なアニメの曲。大まかに言えば身分の違う二人が恋に落ちるそんな話。曲の日本語の歌詞が好きだった。榛名は恥ずかしいって言ったけど、好きな曲だからって設定した。その曲が携帯から鳴り響く。

「鳴ってるわよ」
「…………うん」

見なくても、誰からなのか分かる。

「榛名…?」
『…よう』

久しぶりに声を聞いただけで、榛名と付き合っていたあの頃が鮮明に頭に描かれた。



グッド・フラッシュバック



過去には戻れないけど、やっぱり未来は二人で進みたいよ。





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