気付いたら、恋、してた
この前の野球部の試合以来、彼らの知名度が上がったみたいで女子の間では噂になっている。
あたしの隣の席の泉も例外ではない。
昨日も7組の子にアドレス聞かれてた。
泉のどこがいいのか……あたしには理解出来ない。
「泉君てどんな子が好きなの?」
「泉君てどんな食べ物が好きなの?」
「泉君てどんな子?」
あたしの周りは常に「泉、泉」って……あたしと泉が幼なじみだからっていちいち聞かないでほしい。
それくらい自分で聞きなさいよ!ってね。
「またオレアドレス聞かれちゃったさ」
お風呂から上がって、自分の部屋に行ったら何故か泉がいた。
しかもジュースとお菓子が用意されていて、あたしの漫画を勝手に読んでる。
くつろいでますね、泉君。
「……何、勝手に人の部屋にいるのよ」
「こないだ借りた漫画の続き借りようと思って来たらおばさんが上がれって言ったから」
お母さん!
たたでさえむさ苦しいイメージのある野球部男子を思春期の乙女の部屋に勝手に入れるなんて!!
「オレおばさんに信用されてんの」
人の心を読んだかのようにさらりと言った。
「…………今度は誰に聞かれたの?」
「2組の青葉さん」
「えぇっ!」
2組の青葉さんといえば、うちの学年で一番可愛いと言われているいかにも《女の子》って感じの子だ。
そんな青葉さんが泉なんかのアドレスを聞くなんて!
他にもっと素敵な人いるよ?
「…今ならなつの心読めるわ」
「なっ………!ていうかさ、本貸すから早く帰りなよ」
「じゃあ早く貸せよ」
泉のくせに生意気!
昔は可愛かったのになー。
「そういえば、なつって風呂上がりなんだよな」
「そうだけど?」
泉に貸す筈の漫画がある場所にない。
誰かに貸した覚えないのに。
「だから良い匂いがすんのか」
漫画を探していたあたしの動きが止まる。
それとほぼ同じに泉があたしの腕を掴み、そしてそのまま押し倒された。
その衝動でコップが倒れ、オレンジジュースが零れている。
カーペットが大変な事に、なんて考えてる場合じゃない。
「…………いず…み」
「もっとさー、オレの事見てよ」
「…ちょっと………」
私の上に泉。
手首を固定され身動きがとれない。
この状況、ヤバくないですか?
「オレの事、どう思う?」
「どう思うって…幼なじみ…」
「男として見てほしいんだけど」
今更……って思ったけど、今ちゃんと泉の顔見たら………………
「泉って、かっこいいね…」
「やっと分かった?」
頭に浮かんだ言葉が普通に声に出していてびっくりした。
「え、ちょっと待って!今のなし!!」
「遅ーよ」
顔が近くなる。
あたしは目を閉じた。
「バーカ!キスなんかしねーよ」
そのまま軽い頭突きをされた。
「痛いじゃない……」
「そんなに強くしてないから」
別にキスを期待してたわけじゃないけど、いや、嘘。少しだけ期待してた……かも。
「……なんでこんな事したのよ」
「好きだから、かな」
予想外の答えでどうしていいか分かんなくなった。
「泉ってあたしの事好きなの?」
「……もう言わねぇ」
めちゃくちゃ照れてる泉が可愛くて、思わず抱き締めてしまった。
「………誘ってんの?」
「違う!断じて違うから!!」
「別にいいけどさ」
よくなーい!と泉を叩く。
今は多分、泉よりあたしのがドキドキしてると思う。
泉はあたしの事が、好き。
あたしは…………
「………泉の事好きかも」
「知ってる」
「はあ?」
「だってオレが他の女子からアドレス聞かれたりする度になつの機嫌悪くなってたろ?それが面白くてさ。可愛いなーって思ってた」
「死ねばいいっ!」
自分の知らないうちにそんなに態度に出てたなんて。
恥ずかしくて死にそう。
「んじゃ、これからもよろしくな」
「……………うん」
いつから泉が好きだったか考えてみたら、その境目が分からなかった。
あたし、気付いたら泉に恋してたんだね。