アレンはバカ弟子であたしはアホ弟子。師匠はいつもそう呼ぶ。
「何で名前で読んでくれないのかなー?ちゃんと名前あるのに。ねぇ、アレン」
「でも今更名前呼びされても気持ち悪いですよ」
「そうかなぁ?」
多分これが男女の違い。それかアレンはまだまだ子供だから分からないのよ。っていっても2つしか年離れてない。
「…本当に師匠の事が好きなんですね」
「………悪い?」
別に、とだけ呆れ返ったアレンが呟く。あたしと師匠、年の差はあるけど愛があれば関係ない。片想いじゃ意味ないんだけどね。
「師匠があたしの事好きになってくれればなー」
これにはアレンは反応しなかったのが何か癪に障る。
師匠が好きなものは酒、金、そして女。あたしを見て欲しいのに、ハードルが高過ぎて挫折しそう。
「気持ちを伝えてみればいいじゃないですか…って、いつもやってるか」
「うるさい!」
毎日の様に師匠に「好き」って言ってる。それに対して師匠は適当に流すか完全に無視。それでもめげないあたしはMなんだと思う。
「アホ、ちょっといいか」
「何ですか?」
『アホ』と呼ばれて普通に反応するようになってしまった。
「………え?」
聞かされた内容は師匠が当分の間姿を隠すという話。
「あたしとアレンはどうするんですか?」
「アレンは教団に行かせるけど、お前は…」
あたしは、師匠やアレンみたいに戦えない。一人じゃ何も出来ない。
「……好きにしろ」
「じゃあ師匠に着いていきます」
「それはダメだ」
「何でですか?」
今まで一緒にいたのに。これはあんまりだ。
「今度はお前まで守れる自信がねぇんだよ」
「そんなっ…!」
遠回しに“足手まとい”と言われてる気がする。確かにあたしは戦えないけど、その分師匠とアレンをサポートしてきたつもりだった。それが今更……。
「じゃあ、あたしと結婚して下さい」
「…………なつ」
「え、」
優しく抱き締めるように、師匠が近づいてきた。お酒と煙草と香水。全部師匠の匂いだ。
「オレは今までもこの先もなつを女として見る事はない」
「……し、しょ…」
「だから、すまない」
初めての腕の中。嬉しいはずなのに、こんなにも切ないのはなんでだろう。
こんな時にだけ名前を呼ぶ師匠が嫌いで、狂おしいほど大好き。
「…どこにも行かないで」
消えるように言った言葉は苦いキスで掻き消された。
嘘で塗り固めた愛