たまたま通った廊下で聞いてしまった。
「あなたはあと少ししか生きられないわ」
「分かりました」
初めて見る顔。そりゃあ、教団に来てまだ一週間しか経ってないが、顔を覚える事に関しては自信がある。あの顔はまだ見た事のない顔だ。
次の日、同じ場所で見かけた。聞いてしまった事が申し訳なくて、いてもたってもいられなかった。
「立ち聞きするつもりはなかったんだけど、君…」
聞こうとしたが、彼女は儚げな笑顔を見せる。オレはそれ以上は言えなかった。
「あと一ヶ月であたしはこの世からいなくなるの」
この時、恋に落ちたんだと思う。
それから任務がない時は一緒にいた。色んな話をしたり、聞いたり。たまにちょっと出かけたり、毎日が楽しかった。でも、いつもなつはどこか暗く、よくこんな事を言う。
「あたしがいなくなっても悲しむ人はいないもの」
それを言われると、オレ達の関係ってなんだろうと思う。恋人同士ではないし、友達ともいいにくい。オレは好きなのに、なつはオレの事好きじゃないみたい。
「オレは悲しいよ」
「…ありがとう」
抱き締める事も出来ない自分が不甲斐なく思う。好きなのに気持ちを伝えられない。本当、情けない。
気が付けば明日で一ヶ月という現実がオレ達を襲う。
「今まで楽しかったよ」
「まだ明日になんなきゃ分かんねぇさ」
「……うん」
そして初めて出会った時と同じ笑顔を見せる。今にも消えてしまいそう。
「そうだ。明日になったらこれ、読んでね」
渡されたのは一通の手紙。しっかり封がしてありる。
「分かった。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
それを最後に、なつは目が覚める事はなかった。
手紙を読むのが怖かった。それこそ現実だから。なつが死んだ事を受け入れる事になる。でも……読まなきゃ。勇気を出し、封を開ける。
ラビへ。あたしは人間じゃありません。教団が造った人造人間、の失敗作。神に冒涜する行為だから知ってる人は少ないんだけどね。あたしが動かなくなっても代わりは造れるそうです。だから…悲しまないで。ありがとうさよなら、ラビ。大好きでした。
「…嘘だろ?」
教団が造った?人造人間?んなの聞いた事ねぇよ。これが教団に隠された秘密の一つってわけか…。
確かになつはあんまり感情を出さなかったけど。苦手だとばかり思ってた。
何もかも、嘘のようだ。
返事がないと分かっていても、話し掛けてしまう。
「……なつ、造られたって本気か?」
じゃあなんで…
「泣いてんだよ」
答えはもう返ってこない。
アンドロイドの涙